投手コーチ・吉井理人の指導の軸は「チームの勝利よりも選手の幸せ」 (2ページ目)

  • 高橋安幸●文 text by Takahashi Yasuyuki
  • 小池義弘●写真 photo by Koike Yoshihiro

「いろんな意味で、コーチというのは選手個人と向き合う方が比率としては高いわけです。そうすると『個人がうまくいけばチームもうまくいく』という考え方になっていく。これはたぶん野球観の違いで、同じコーチでもいろんな人の考えがあると思うんですが、僕は選手個人の幸せを軸にやってきました。だから、チームのメンバーが変わったからどうのこうのと考えたことはほとんどないですね。ただ、これをあまり大きい声で言っちゃうと、たぶん批判があると思います(笑)」

 とはいえ、たとえば抑えが抜けたとして、穴埋めに見合った投手を新たに見い出すのもコーチの仕事だろう。その場合、この選手はここでいける、と自身で判断して監督に提案するのか、それとも、監督との話し合いのなかで意見を言って決めるのか。

「最終的に決めるのは監督なんですけど、以前、日本ハムでコーチをしているときは、僕がちょっと意見を言い過ぎました。僕のいちばんの欠点で、ついズバズバ言ってしまって、ちょっと越権な場合もあって......(笑)。それで監督はやりづらかったと思うので、この3年間は主導権が監督の方に行くように、自分では考えてやってきたつもりでした。

 そのなかで意見できるところはしっかり、『この選手はこんなタイプなんで、このポジションがいいと考えてます』というふうに言います。『こいつ、クローザーでお願いします』みたいな、そういう言い方はしないです(笑)」

 そんな無茶な提案はなかったとしても、コーチの吉井が推し、監督の栗山英樹が新たに抑えに抜擢したのが、高卒4年目の右腕・石川直也だった。実質1年目だった17年は37試合に登板して経験を積んだが、セーブは挙げていなかった。長身から投げ下ろす速球とフォークが武器でも、当然ながら経験不足が心配された。

 案の定というべきか、3月31日、西武との開幕第2戦。2対3と1点ビハインドの9回に登板した石川は一死後に四球から崩れ、山川穂高に3ランを浴びるなどして4失点。マウンド上の顔は青ざめ、降板後はまだ裏の攻撃があるのにベンチでうなだれ泣いているようだった。

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