松坂大輔、ドラゴンズでの復活に向けて
「痛みへの恐怖心」に勝てるか (3ページ目)
そうなのだ。
自分の体に大丈夫だよと言い聞かせながら――。
今のところ、去年よりは――。
つまりは今も、心のどこか、深いところにある怖さが完全に消えたわけではない。何しろ去年の秋までは肩の痛みが深刻で、投げることさえできず、懸命の治療を続けていたのだ。医学的に痛みの原因がなかなか特定できず、治療もリハビリも、正しい方向に進んでいるのかさえわからなかった。そんなとき、ホークスの工藤公康監督がこう言った。
「オレにもあったよ。朝起きたら、突然、肩が痛くないってことが......だから、いつそういう日が来るかわからないんだと思って、とことん頑張れ」
このオフ、自宅のあるボストンに戻ってから、メジャー式のプログラムに則(のっと)って肩の可動域を広げるトレーニングを続けてきた。痛みが出ない毎日が続き、おそるおそる投げてみたら、やはり痛くない。わずかな光明を頼りに、寒いボストンから温暖なロサンゼルスへ移動して、ボールを投げてきた。朝起きて、今日も痛くないと安堵する一日一日を積み重ねて、今がある。そして、そういう日々はこれからも続いていく。松坂はこうも言っていた。
「ホント、何がストレスかって、僕の中では腕が前で強く振れないっていうのは一番、ストレスが溜まるんです。フォームに関しては、いろんな人にいろんなことを言っていただくんですけど、それは確かにそう投げられるのが理想です。でも、それは今の僕には合わない。なぜなら、その使い方をしたときに痛みが出るかもしれないという怖さがあるからです。
いつも不安はありますよ。だって、絶対に痛みが出ない保証はどこにもないですからね。怖さというものは常にどこかで持ってます。だから、防衛本能みたいなものが働いているのかな。体が、気をつけろというサインを出してくる感じがするんです。ホント、微妙なんです。そこを乗り越えられるのかは正直、分からないんですけど、もし乗り越えられたら、これで大丈夫だという自信みたいなものが出てくるかもしれません」
その自信は、まだ芽生える段階にはない。
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