飯田の超絶バックホーム、イチロー対策...。日本シリーズ舞台裏の秘話 (2ページ目)

  • 木村公一●文 text by Kimura Koichi
  • photo by Kyodo News

 だからこそ、いい流れをつかめば一気にムードは変わり、劣勢だったはずが優勢になっているときがある。私もプロ野球の世界に50年関わってきた身だが、日本シリーズのあの流れというものの正体はいまだにわからない。

 まさに、ひとつのプレーで大きく局面が変わったのが、私がヤクルトのコーチ時代に戦った1993年の西武との日本シリーズだ。

 第1戦、2戦とヤクルトが勝利したものの、第3戦で西武・伊東勤の好リードによって打線が沈黙し2対7で敗戦。第4戦も1点を先制したが追加点を奪えず、ベンチには嫌な空気が漂っていた。ヤクルトがリードしていたものの、試合の流れは西武にあった。そんな終盤、8回にあるプレーが起きた。

 西武が二死一、二塁の場面で、鈴木健が川崎憲次郎からセンター前にヒットを放った。私らベンチでは「やられた、同点か」と思ったが、そのときセンターの飯田哲也がとんでもなく浅い位置で守っていたのだ。そして捕球するや素早い送球でバックホームし、二塁走者を刺した。見事なドンピシャのストライク送球。少しでも逸(そ)れていたら、確実に同点になっていただろう。

 ただあの場面、コーチが守備位置の指示を出したわけではなく、飯田自身の判断で前に守っていたのだ。普通に考えれば、二死一、二塁でマークすべきは逆転のランナーとなる一塁走者。1点リードの状況で、しかも打者は長打力のある鈴木健だ。セオリーでいけば定位置かそれよりやや後ろ。ところが飯田はセオリーを無視して、勘を頼りに前進守備をとった。まさにあれは、データを超えたビッグプレーだった。

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