広島の名スカウトが惚れ込んだ男・
加藤拓也は「ポスト黒田」となれるか

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • 西田泰輔●写真 photo by Nishida Taisuke

 その指名を見た瞬間、あるベテランスカウトの顔が浮かんできた。

 田中正義(創価大)、佐々木千隼(桜美林大)と相次いで重複1位入札をクジで外した広島東洋カープ。「外れ外れ1位」として指名したのは、慶應義塾大の剛腕・加藤拓也だった。

緒方孝市監督(写真左)も大きな期待を寄せる広島ドラフト1位の加藤拓也緒方孝市監督(写真左)も大きな期待を寄せる広島ドラフト1位の加藤拓也 この加藤のことを12球団のスカウトのなかでもっとも評価していたのが、広島の苑田聡彦スカウト統括部長だったのかもしれない。2016年春のシーズンが開幕した頃から、71歳の苑田スカウトは加藤のことを高く評価していた。ドラフト前に話を聞いた際には、「実は」と前置きして、こう語っている。

「加藤が一番好きな選手なんですよ」

 苑田スカウトはかつて、専修大時代の黒田博樹の才能にいち早く惚れ込み、球団に猛プッシュしてプロの世界へと導いた実績がある。そんな目利きに見初められた加藤拓也とは、どのような投手なのか。

 加藤は自身がカープから高い評価を受けていることは指導者づてに聞いていたが、ドラフト1位で指名されたことは想定外で驚いたという。

「大学生や社会人のドラフト1位といえば、ある程度完成している、まとまりのあるタイプが指名されると思っていました。僕はそういうタイプじゃないし、『一芸』というか、そういうタイプだと思っていたので」

 本人が語ったように、加藤は誰もが認めるドラフト1位という投手ではない。スカウトの間でも賛否分かれる存在だった。最速153キロの剛速球と縦に落ちるスライダー、スプリット。馬力の強さは評価されていた反面、身長175センチ、体重90キロという数値が表すように、全身を覆う筋肉の鎧を否定的に見るスカウトもいた。

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