4年目の覚醒。山田哲人が「ヤクルトの至宝」になるまで (5ページ目)
神宮球場の室内練習場。恒例の早出練習では選手たちが各々にバットを振り込んでいる。シーズンが開幕してから、何ひとつ変わらない風景だ。
「よし終了!」
杉村コーチはそう言って地面に転がるボールを拾いはじめた。ティーバッティングを終えた山田は「うわ、これはきつい」と声を上げた。真夏日となったこの日は、練習を見ているだけでも全身から汗が滝のように流れた。室内練習場にエアコンはなく、それだけでも選手たちの過酷さは十分に伝わってくる。
神宮の名物となった早出のティーバッティングだが、山田はビジターの試合であっても欠かさないという。
「山田の方から練習がしたいって言ってくるからね。ブルペンを使ってやっています。ネットが2つほどあれば十分にできるし、ホームチームの練習の邪魔にもならないでしょ」(杉村コーチ)
「続けることが大事なんで。やれば結果にもつながりますし、もう習慣になっている感じです。試合でも、ティーバッティングをしたから大丈夫だという気持ちが生まれますし、逆に満足にティーバッティングができないと嫌な感覚が残りますね」(山田)
そして最後に、杉村コーチは山田の可能性について次のように語った。
「最近は“キューバの至宝”が何人も日本に来ているけど、山田は“ヤクルトの至宝”ですよ。今後、5年、10年とチームを引っ張っていってもらわないといけない存在。内川や青木と同じように大打者になる素養は持っています。技術面でいうと、ヘッドスピードが速く、広角に打てる。体はまだ細いけど、馬力があって、手首が強く、それでいてバッティングが柔らかい。気持ちの部分でもしっかりしているし、頭もいい。それだけの才能を持った選手ですから、まずは3割、30本塁打、30盗塁を目指してほしいですね」
試合開始時間が近づいてきた。ヤクルトの選手たちが続々とクラブハウスから出てきて、グラウンドへ向かって歩き始める。そして山田に最後、こんな質問をしてみた。
―― 山田選手はどんな打球を打った時に、喜びを感じますか?
「そういうのは特にないですね(笑)。ヒットになればそれでいいんで……。今は打った瞬間、これはヒットだな、と思えた時がいちばんの喜びです」
そう言って笑うと、グラウンドに向かい、淡々とウォーミングアップを始めたのだった。
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