4年目の覚醒。山田哲人が「ヤクルトの至宝」になるまで (4ページ目)
そう本人は謙遜したが、日々の練習がその素晴らしい才能を引き出し、今、プロ野球界に驚きをもたらしているのは、紛れもない事実だ。そして杉村コーチはこんな話をしてくれた。
「若手選手が急激に伸びる時というのは、賞を獲った時です。山田は今年の交流戦で優秀選手賞と首位打者のタイトルを獲りました。これによって、小さなことの積み重ねが大事だとわかったと思うんです。フリー打撃でも飛距離が出だして、スイングも速くなりました。今シーズン印象に残っているのは、(4月16日の)巨人戦で菅野智之からライトにホームランを打った時です。それと、(5月6日の)広島戦で九里亜蓮からバックスクリーンに打った時は、『おぉ、これは』と思ったよね。そして山田の好調の要因として忘れてならないのが、ヤクルトの先乗り、チーム付きスコアラーの存在です。彼らがしっかりしたデータを集め、狙うべき球種とコースを明確に伝えている。だから、山田は思い切ってバットを振ることができるんです」
交流戦が終わっても、山田の勢いは落ちるどころか、より凄みを増してきた。
「6月に入ってからもあまりに打つから、もうひと頑張りすればオールスターもいけるぞ、と話したんです。そしたら本当に選出されて。『じゃあ、(MVPの)300万円獲ってこい』って言ったら、第2戦でホームランを打って、(敢闘賞の)100万円を獲ってきた。さすがに、『コイツは何か持ってるぞ』と思い始めるよね(笑)」
ちなみに、オールスター第2戦でのホームランは、山田いわく「狙って打った」というから、なおさら驚きだ。
「オールスターは結果を気にする必要がないですし、失敗しても失うものはないですから。球種も絞りやすいですし、思い切っていけるチャンスだったので狙いました(笑)」
―― 公式戦でもすでに16本塁打を打っています。また、ホームランの誘惑が生まれたりすることはないですか?
「全然。公式戦では広角に打つことへの意識の方が強いですよ。ホームランが出ればラッキーみたいな感じでいます。僕が目指しているのは、長打があり、時にはしぶといバッティングをする。つまり、相手から『対戦するのは嫌』と思われるバッターになることです」
―― 首位打者をはじめ、タイトル獲得の期待もかかります。山田選手の中では、タイトルを意識した方がいいのか、それともしない方がいいのか、どちらですか?
「意識はまったくしていません。自分でも出来すぎの数字ですから。今は、大事な場面で初球から打ちにいってアウトになったり、三球三振もよくしたりするので、まずはそれをなくしていきたいです。とにかく、数字を下げないように頑張るだけです」
杉村コーチはタイトル獲得について、大きな期待を寄せている。
「残り2カ月ちょっと、多少のスランプはあるだろうけど大きく崩れることはないだろう。これからタイトル争いとなれば、未知の世界に突入するわけだけど、気持ちをいっそう強く保たなければならない。やりがいはあると思うし、最初に設定したシーズン180本を実現できれば、首位打者、最多安打、最高出塁など、どれかのタイトルに引っかかってくると思うんだけどね」
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