2014.07.19

職人たちが作り出す甲子園「もうひとつのドラマ」

  • 高森勇旗●文 text by Takamori Yuki
  • 岡沢克郎●写真 photo by Okazawa Katsuro

 甲子園は、天候によってグラウンドの硬さが変わるということをご存知だろうか? 天候だけではない。気温や湿度、デイゲームとナイター、季節によっても硬さが微妙に変わる。このことを教えてくれたのは、甲子園球場のグラウンド整備を長年務めている、「阪神園芸」の金沢健児氏だ。

今年、9年ぶりにオールスター開催となる甲子園球場

「雨が降っている日、また試合中に雨が降ってきそうやなという日は、少し硬めにしています。季節によって、試合時間の気温やスタンドの影の具合なんかを計算してグラウンドの状態を仕上げています。今は選手でも気象情報を携帯電話とかで見られますけど、昔はありませんでしたからね。平田勝男(※)さんなんかは、試合前にグラウンドが硬いと、『今日、雨降るの?』って聞いてきましたね。いつもプレイをしている選手には分かるんでしょう」
※1982年に阪神に入団し、83年から遊撃手のレギュラーに定着。84年から87年までゴールデングラブ賞を獲得するなど、名手として活躍した。

 阪神園芸とは、甲子園球場の整備をはじめ、その他官民問わず施設の整備を請け負う、関西では知る人ぞ知る"造園業の雄"として知られている。その中で金沢氏は、甲子園球場のグラウンドキーパーの責任者を務める、この道26年の職人だ。なお正式な肩書きは、「阪神園芸株式会社運動施設部整備第一課課長」である。金沢氏によると、土の硬さが変わるのは気象条件に限ったことではないという。

「その時代のタイガースの内野手が誰かによって、グラウンドの硬さは微妙に変えます。(前出の)平田さんなんかは『とにかく軟らかくしてくれ』と言っていました。肩に自信があるから言えるんでしょう。グラウンドが軟らかいと打球の勢いが死ぬので、横の打球に追いつけますし、イレギュラーのリスクも減りますが、その分、ファーストに強いボールを投げないと間に合いませんからね。そういう意味で、セカンドの選手は基本的に軟らかいグラウンドを好みます。セカンドは送球する距離が短いですから、横の打球に追いつきたいという気持ちがより強いんでしょう」

 その時代の内野手の要望とともに変わる甲子園のグラウンド。そして今、阪神の内野手といえば、2011年と2013年にゴールデングラブ賞を獲得した鳥谷敬である。はたして、鳥谷からの要望はあるのだろうか。

「トリ(鳥谷)は何も注文してきません。ただ、試合が終わって整備をすると、トリの守っていたショートはとてもきれいなんです。足で丁寧にならした後があちこちに見える。そういう細かい準備がゴールデングラブ賞につながっているんやなというのが、グラウンドからも見えますね」