斉藤和巳「オレの連勝記録を破ったのが田中将大で良かった」 (2ページ目)

  • 田尻耕太郎●文 text by Tajiri Kotaro
  • 繁昌良司●写真 photo by Hanjo Ryoji

 今シーズン、24勝0敗という神がかり的な成績を残した田中だが、それでもまだ斉藤に届かないものがある。それが通算勝率だ。今季の成績を含めた田中の通算勝率は.739(99勝35敗)。これはNPB時代のダルビッシュ有の成績(.710/93勝38敗)を上回ったが、斉藤の.775(79勝23敗)には及ばなかった。「負けないエース」と評された斉藤。彼がマウンドでこだわっていたものとは何だったのだろうか。

「勝つ」と「負けない」は同じようなことだけど、勝つことってひとりじゃ出来ないんですよ。いくら自分がゼロに抑えても、味方が点を取ってくれなければ勝てないですからね。でも、負けないということはひとりでどうにかできる。もちろん、守ってくれているというのが前提としてありますが、自分がゼロにさえ抑えていれば負けることはない。チームに貢献できるのはどっちだと考えた時に、自分が選んだのが「負けない」ピッチングだったんです。

 だから、勝利数よりも貯金にこだわっていました。つまり勝率ですね。たとえば、10勝10敗とすると、ローテーションを守ったという意味では評価されるかもしれませんが、貯金はゼロですよね。それだったら投げる回数は少ないけど、10勝0敗の方が僕はいいと思っていました。キャンプの頃に、「今年の目標を教えてください」ということをよく聞かれたのですが、僕は勝ち星を答えることはせず、「最低でも2ケタの貯金はしたいです」と答えていました。

 それともうひとつ、僕がこだわっていたことは「魅せる」ということ。もちろん、勝ちたい、優勝したいという思いはいつもありました。でも、それは選手としてやっている以上当たり前のことで、その部分に関してはアマチュアも同じなんです。ならば無意識なことを意識するよりも、僕らはプロフェッショナルな野球選手なのだから、違うところに意識を持っていくべきだと考えていました。やっぱりプロは技術を見てもらってナンボという考えがありましたし、ファンの方もプレイにお金を払ってくれているわけですから。とにかく高い技術を見せたいという考えは、いつもありました。

 最近は、選手が笑いを取りにいく風潮があります。すべてを否定するわけじゃないですが、やっぱり本職がおろそかになってしまうと、いろんな面で低下してしまうと思うんです。野球は伝統あるスポーツですし、OBの方々が築き上げてくれたものがありますから、プロの選手である以上、そこは受け継いでいくべきだと思っています。日本の野球界を支えるとか、そこまで大きなことは言えませんが、現役時代はファンの方に野球の面白さや奥深さを伝えたいと思ってプレイしていましたね。

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