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【プロ野球】寡黙なエース、西武・岸孝之の奥底に眠る「熱」 (3ページ目)

  • 益田佑一●写真 photo by Masuda Yuichi

 それから2年後、ブルペンでそのままの腕の振りを披露してくれた。なで肩のせいなのか、両腕がすごく長く見える。太いムチを振るってくるような腕の振りで、ミットを構えていてもそのムチで叩かれているような感覚。あんまり腕の振りが速いから、リリースポイントなんて見えやしない。速い、そして重い。この細い体で、この重量感。

 低めの高さがわからない。それぐらいの伸び。腰を下ろして構えて、股間の高さにホップしてくる感じだ。これは怖い。気温7℃の寒さの中で、カーブは抜けがちだったが、うまくハマったときのカーブは垂直落下。18.44メートルが短く感じられた。

 そういえば、こんなことを言っていた。

「『プロがダメだったら』なんて逃げ道を作ったら、プロも遠のくんじゃない?」と大きなお世話のキツイこと言ったら、「その時になったらその時で、頑張れる人なんで……」と。

「あっ!」と思った。

 7勝目を挙げた6月27日のロッテ戦。岸は2回に、大松尚逸のライナーの打球を左ヒザの裏に受けていた。

「6回から徐々に(患部が)固まってきて、力が入らなくて……。7回は、もう限界かなと思った」

 それでも、その2イニングを打者6人で完璧に封じてみせた。そんな強さ、いつの間に培ったのか。それとも、見抜けなかっただけで、あの頃からもう持ち合わせていたのだろうか。見た印象は、壊れやすいガラス細工。しかし、その奥底には熱いマグマが人知れずたぎっている。

「熱さ」をそのまま見せても、それはプロの値打ちじゃないのかもしれない。

 外柔内剛――仕事をする人間の本当の値打ちは芯の強さ。そう、根っこの強さなのだろう。

著者プロフィール

  • 安倍昌彦

    安倍昌彦 (あべ・まさひこ)

    1955年宮城県生まれ。早大学院から早稲田大へと進み、野球部に在籍。ポジションは捕手。また大学3年から母校・早大学院の監督を務めた。大学卒業後は会社務めの傍ら、野球観戦に没頭。その後、『野球小僧』(白夜書房)の人気企画「流しのブルペンキャッチャー」として、ドラフト候補たちの球を受け、体験談を綴っている。

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