【プロ野球】決意のストレートで勝負の3年目に懸ける阪神・秋山拓巳 (3ページ目)
ドラフトの秋が来て、もう一度西条に受けに行った。
「こんにちは!」
ネット裏で田邉監督と話していたら、長身の選手がひとり、あいさつをしながら走りすぎた。
「アベサン、あれ、秋山ですよ」
「ええっ!?」
人相が変わっていた。正確にいうと、人相が変わるほど、体を絞っていた。
「夏」より締まってるよぉ……。
その「変身」が彼の覚悟だったのだ。
「今の練習、夏の前にやっておけば、甲子園はもっと変わっていたと思うんですけどねぇ」
言っても詮無(せんな)いことと、田邉監督が笑う。
グラウンドに目を向けると、外野で走っている「スリムな秋山」が見えていた。引き締まった体躯の上に、精悍なマスク。今の秋山の姿。
無精ヒゲが、笑った顔、悔しがる表情を余計に精悍に見せている。
スライダーはタテと横、カーブに、チェンジアップに、ツーシームに、今度はフォークを勉強中だといっていた高校生の頃の彼。器用だから、なんとなくなんでも投げられてしまって、じゃあ何が勝負球かと訊かれると、「……」がほんとのところだった。
プロ3年目。
若手なりに、商売人としての辛酸をなめて、行き着いたのが「ストレート」。ストレートをファールにさせて変化球。そんな無難なストーリーじゃ、プロでは「普通」の域を出ない。変化球で追い込んでストレート。わかっていても、差し込まれるボールの勢いは、若武者・秋山の「勢い」と見た。
もうひと息だ、辛抱しよう。
そして、お呼びがかかったら、その時こそが、男の勝負だ。
著者プロフィール
安倍昌彦 (あべ・まさひこ)
1955年宮城県生まれ。早大学院から早稲田大へと進み、野球部に在籍。ポジションは捕手。また大学3年から母校・早大学院の監督を務めた。大学卒業後は会社務めの傍ら、野球観戦に没頭。その後、『野球小僧』(白夜書房)の人気企画「流しのブルペンキャッチャー」として、ドラフト候補たちの球を受け、体験談を綴っている。
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