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大谷翔平が生み出した二刀流の価値を「唯一無二」で終わらせてしまっていいのか? その魅力を未来に繋げることがMLBの責務 (3ページ目)

  • 奥田秀樹●取材・文 text by Hideki Okuda

【大谷によって生まれた新しい需要を未来に】

 思い出すのは約1年前の会話だ。2025年5月、ドジャースタジアム。試合前、ダグアウトで話を聞いた相手はロサンゼルス・ドジャースのディノ・イベル三塁ベースコーチ。話題は息子のブレイディについてだった。ロサンゼルス郊外の野球強豪校コロナ高校に通い、内野手としてドラフト1巡目候補に挙がっていた有望株である。彼も高校2年までは二刀流選手として活躍した選手で、高校での通算成績は投手としても11勝0敗、防御率0.32という驚異的な成績を残していたのである。同校にはほかにもセス・ヘルナンデス、ビリー・カールソンと全部で3人も1巡目候補がいて、同じく二刀流で活躍していた。

 そこで私は聞いた。

 息子さんは高校の最終学年は野手に専念してドラフト指名候補となったが、二刀流を続けることは考えなかったのか、と。返ってきた答えは驚くほど明快だった。

「考えなかったですね」

 イベルは首を振った。

「特に、プロでは本当に難しい。翔平は唯一無二の存在です。今後、翔平のような選手が出てくる可能性は否定しません。でも、とても大変です。だから私は息子に言いました。将来メジャーを目指すなら、どちらかを選んだほうがいい、と伝えました」

 メジャー球界で、イベルコーチほど大谷の二刀流を近くで見続けてきた人物はいない。2018年、大谷がロサンゼルス・エンゼルスへ入団した時、イベルは同球団のコーチだった。その後ドジャースへ移り、2024年には大谷も加入した。息子のブレイディも父親の職場を訪れ、大谷が練習する姿を間近で見て育った。それでも父親は息子に二刀流を勧めなかった。それは二刀流に価値がないからではない。挑戦するにはリスクが大きすぎるからだ。エルドリッジもそうだった。やりたいと思っていた選手たちも、プロの世界へ入ると投手か打者かの選択を迫られる。問題はそこだ。だから私は、MLBが今考えるべきなのは「二刀流を認定する制度」ではなく、「二刀流に挑戦できる制度」だと思う。

 MLBは今、分岐点に立っている。大谷が現役を終えた時、「大谷は唯一無二で例外だった」と結論づけるのか、それとも、大谷が示した可能性を競技全体へ広げようとするのか。

 ベーブ・ルースはファンの好みを変えた。MLBはその変化を見逃さず、本塁打が生まれやすい野球へと進化した。歴史が教えているのは、偉大な選手そのものがスポーツを変えるのではないということだ。

 偉大な選手によって変わったファンの嗜好こそが、スポーツを変える。MLBが問われているのは、大谷によって生まれた新しい需要を、競技の未来へつなげられるかどうかだ。大谷に憧れ、投げて打つことを夢見る子供たちは存在している。

 100年前、それはルースだった。そして今、それは大谷翔平なのではないだろうか。

著者プロフィール

  • 奥田秀樹

    奥田秀樹 (おくだ・ひでき)

    1963年、三重県生まれ。関西学院大卒業後、雑誌編集者を経て、フォトジャーナリストとして1990年渡米。NFL、NBA、MLBなどアメリカのスポーツ現場の取材を続け、MLBの取材歴は26年目。幅広い現地野球関係者との人脈を活かした取材網を誇り活動を続けている。全米野球記者協会のメンバーとして20年目、同ロサンゼルス支部での長年の働きを評価され、歴史あるボブ・ハンター賞を受賞している。

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