山本由伸のポストシーズン2試合連続完投勝利はMLBのデータ主導野球の潮流に影響を与えるのか (2ページ目)
【山本のピッチングが将来へのヒントになることを願う】
前編で紹介した、ドジャースのクレイトン・カーショーの言葉「これが"野球が戻るべき姿"なのかもしれませんね」を、あらためて思い出してほしい。
歴史的に見ても、ファンを最も熱狂させてきたのはホームラン王ベーブ・ルースのような存在だが、それに匹敵するのが完投型のエースたちだった。代表格は通算222完投を記録し、ノーヒットノーランを7度達成したノーラン・ライアン(テキサス・レンジャーズ他/メジャー歴1966〜1993年)である。あるいは、スピードを武器に通算1406盗塁を記録したリッキー・ヘンダーソン(オークランド・アスレチックス他/メジャー歴1979〜2003年)だった。彼らはそれぞれの分野で"極限"を体現し、野球というスポーツに夢と興奮を与えてきた。しかし、データ主導による「勝利への最適化」が進むなかで、完投数も盗塁数も激減。リスクを排除することで、野球のドラマが失われていった。
それではいけないとMLBは2023年からルールを変更し、盗塁を狙いやすくし、失われたスリルを取り戻そうとしている。
カーショーが語った「先発同士の真っ向勝負、試合終盤まで投げ合う姿はいつだって魅力的です。今回の山本のピッチングが、将来へのヒントになるかもしれません。そう願っています」。この言葉に、賛同する人は少なくないはずだ。
今年、山本がポストシーズンで完投を果たしたのは、2017年のア・リーグ優勝決定シリーズ第2戦でジャスティン・バーランダー(現サンフランシスコ・ジャイアンツ)がニューヨーク・ヤンキースを相手に9回13奪三振で完投勝利を収めて以来のことだった。公式戦のデータを見ても、その希少性は明らかだ。2018年以降、個々の投手のシーズン最多完投はわずか2〜3試合が続いており、例外は2022年のサンディ・アルカンタラ(現マイアミ・マーリンズ)が記録した6完投のみである。
かつての時代を思い出してみよう。1988年、オーレル・ハーシュハイザーはドジャースをワールドシリーズ制覇へ導く伝説的なポストシーズンを送った。ナ・リーグ優勝決定シリーズで1試合、そしてワールドシリーズで2試合、計3試合連続完投という前人未到の偉業である。当時1980年代には、シーズンで完投2ケタに達する投手が毎年10人以上いた。完投を目前にして9回のマウンドに立つ――その瞬間に漂う独特の緊張感と高揚感が、野球が最も美しく輝く時間のひとつだったのである。
ちなみに、ドジャースは強力なブルペンを構築することで、ここ数年にわたって安定した成績を残してきた。2020年のブルペン防御率は2.74で30球団中2位。以降も、2021年は3.16で2位、2022年は2.87で同じく2位、2023年は3.42で3位、2024年も3.53で4位と、常に上位に位置してきた。しかし今年(2025年)は4.27で21位と大きく成績を落としていた。その状況のなかで、山本がまさに"救世主"として現れたのである。
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