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【MLB】最高クラスの成績でも納得せず メッツ・千賀滉大が追い求めるピッチングの世界線とは? (2ページ目)

  • 杉浦大介●取材・文 text by Sugiura Daisuke

【最高の状態はまだこれから】

 5月13日のピッツバーグ・パイレーツ戦では2回から5回まで毎回三塁に走者を置きながら、大事な場面では得意の"お化けフォーク"を多投して後続を絶った。同19日のボストン・レッドソックス戦では2回までに3失点を許すも、徐々に立て直して6回を投げきった。

 同25日のロサンゼルス・ドジャース戦では大谷翔平に先頭打者本塁打、同31日のコロラド・ロッキーズ戦ではエセキエル・トーバーに先制弾を許すなど、序盤に失点するシーンはちらほら見受けられる。100マイル(160キロ)近い豪速球とフォークボールを軸に、メジャーリーガーたちを圧倒した1年目ほど豪快な投球をしているわけではない。フォーシームの平均球速は94.7マイル(151.5キロ)と2023年の同95.7マイル(153.1キロ)からちょうど1マイルも下がっており、やはりまだエンジン全開というわけではないのだろう。

「単純にやっぱり投げ方がよくないので、持っているHP(ヒットポイント=体力)の減りが速いみたいなイメージ。僕は投げていけばいくほど合ってくる投手だと思っているんですけど、それが後半になるにつれて、球数が増えていくにつれてうまくいかない。自分の中で探している部分はあります」

 昨季の故障の影響か、アジャストメント(調整・調節)を取り入れながら最善の投球フォームを模索し続けている印象がある。ただ、繰り返しになるが、残してきた数字はメジャー最高級。逆に言えば、まだ最高の状態でないのにもかかわらず、これだけの数字を残せるのは見事という考え方もできる。

 要所を締める投球が可能になっている最大の要因は、やはり代名詞となった"お化けフォーク"の威力にほかならない。1年目は被打率.110、被長打率.147だった千賀の決め球は、今季もここまで被打率.085、被長打率.170という圧倒的な効果を維持。2ストライクに追い込んでからの三振奪取能力を示すPutAway%も25%と高く(2023年は28.2%)、この球種はまさに"ウィニングショット"と称されるにふさわしい。

 それに加え、これまでの経験と春から積み上げてきた準備が相乗してきている部分もあるのだろう。

「この土台を作ってくれたのは、やっぱりダルさん(ダルビッシュ有/サンディエゴ・パドレス)であり、いろんな方のアドバイス。そういうところを自分のなかで見つめて、長い準備をかけてやれている」

 絶好調時の球威がなくとも、優れたピッチングが続けられる姿からは、千賀の投手としての総合力の高さが見えてくる。同時に、まだ絶好調ではないからこそ、今後はさらに期待できるという考え方もできるのだろう。

「千賀がローテーションの軸として投げている時、メッツは一段階上のより危険なチームになる」。前半戦途中、ナ・リーグのあるスカウトが述べていたそんな指摘は説得力を持って響いてくる。過去2年は故障に悩まされてきた千賀にとって、今季はプレーオフでの上位進出を目指すメッツにとっても、最新のケガが軽症で済んだことは幸いだった。

 ここで万全に近いコンディションを取り戻せば、後半戦は面白くなる。模索中のメカニックが整ったとき、どれだけの投球で魅せてくれるのか。まだシーズンは折り返し地点を迎えたばかりであり、息を吹き返した千賀がメジャーの強打者たちを再び震撼させる時間は残されているはずである。

著者プロフィール

  • 杉浦大介

    杉浦大介 (すぎうら・だいすけ)

    すぎうら・だいすけ 東京都生まれ。高校球児からアマチュアボクサーを経て大学卒業と同時に渡米。ニューヨークでフリーライターになる。現在はNBA、MLB、NFL、ボクシングなどを中心に精力的に取材活動を行なう

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