【MLB】大谷翔平と同じ道を歩むのか? 倹約球団で気を吐く剛腕投手スキーンズの奮闘に見る個人の偉業とチームの低迷 (2ページ目)
【剛腕スキーンズに見る個人の偉業とチームの低迷のもどかしさ】
そんなドジャース6連戦のなかで、最も印象的だったのは、4月25日のパイレーツ戦だった。球速100マイル(160キロ)を誇るパイレーツの剛腕ポール・スキーンズが先発し、山本由伸との投げ合いを制した一戦である(パイレーツが3対0で勝利)。大谷翔平との3打席の対決でも、2年目の進化をはっきりと示した。
第1打席はフルカウントから99マイルの直球で中飛に打ち取り、第2打席は1対0とリードで迎えた3回1死二塁の場面。カウント2-2(ボール-ストライク、以下同)から外角低めのボールゾーンに沈むチェンジアップを打たせて、投ゴロに仕留めた。そして3対0とリードして迎えた5回2死二塁、第3打席は再びフルカウントから膝元に落ちるカーブを振らせ、空振り三振に仕留めた。
試合後、スキーンズはこの大谷との第3打席について、次のように語った。
「(途中の)3-1というカウントは、世界最高の打者のひとりを相手にするには理想とは言えない。でも、『自分の球がどこまで通用するか試してみよう』という気持ちでした。結果的にアウトが取れてよかった。制球はバラバラだったけれど、なんとか集中して投げきることができた」
スキーンズの姿を見ていると、エンゼルス時代の大谷を思い出す。大谷は2021年から2023年にかけて二刀流で圧倒的なパフォーマンスを見せ、球界を驚かせたが、一度も優勝争いの舞台に立つことはできなかった。個人の偉業とチームの低迷。そのギャップは、選手本人にとってもファンにとっても、どこか物足りなさを感じさせる。
スキーンズもまた、弱いチームにいながら高い志を持ってプレーしている。昨年、通算303勝・100完投を誇る大投手ランディ・ジョンソンに会い、「常識や限界を打ち破るのが特別な選手。誰にも限界を決めさせるな」と励まされたという。今のMLBでは球数制限が厳しく運用されているが、スキーンズはその枠にとどまるつもりはない。25日の試合後には、その思いがにじみ出た。
キャリア最多の108球を投げ、7回にもう一度マウンドに上がれたことについて、「うれしかった。正直、自分は140球、150球でも投げられる体力があると感じている。もちろん、今のメジャーではそれは現実的ではないけれど、もし『もう一打者、もう1イニングいけるか?』と聞かれたら、絶対に断らない。6回や7回のほうが、むしろ1回より体がよく動くことも多いし、今日もまさにそうだった」と胸を張った。
だが、そんなスキーンズが、今季後半に優勝争いの真っただ中で投げることは、おそらくないだろう。来年も再来年もそうかもしれない。
今、大谷はドジャースにいることで、その才能を存分に発揮できる舞台に立っている。二刀流として、9月、10月の大一番で躍動する姿が見られるのは、ファンにとってこのうえない喜びだ。しかし同時に、MLBというリーグ全体の価値、エンターテインメントとしての完成度を高めるためには、もっと多くのチームが「勝つ気」を持てる構造が必要だと強く思う。
勝利を追い求める球団と、倹約主義に徹する球団。今のメジャーリーグは、極端な二極化が進んでいる。そうではなく、大谷やスキーンズといったスーパースターたちが、走り、打ち、投げる──そんな豊かで多様な物語を描ける舞台こそが、MLBの今後であってほしい。
著者プロフィール
奥田秀樹 (おくだ・ひでき)
1963年、三重県生まれ。関西学院大卒業後、雑誌編集者を経て、フォトジャーナリストとして1990年渡米。NFL、NBA、MLBなどアメリカのスポーツ現場の取材を続け、MLBの取材歴は26年目。幅広い現地野球関係者との人脈を活かした取材網を誇り活動を続けている。全米野球記者協会のメンバーとして20年目、同ロサンゼルス支部での長年の働きを評価され、歴史あるボブ・ハンター賞を受賞している。
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