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【MLB】野茂英雄から大谷翔平までの道のり 日本人3人がドジャース先発陣を占める意味 (3ページ目)

  • 奥田秀樹●取材・文 text by Okuda Hideki

【日本人3投手がローテに入るまでの長期戦略】

 あれから22年、今のドジャースは、3人の日本人選手を支える盤石の体制を整えている。チームには複数の日本人通訳、メディカルスタッフ、トレーナーがいて、フロントにも日本人がいる。アンドリュー・フリードマン編成本部長の信念は、「選手は適切な環境に身を置けば、最高のパフォーマンスを発揮できる」というもの。

 ただ日本人スタッフを揃えるだけでなく、フリードマンをはじめとするアメリカ人スタッフも、日本文化や日本人選手の特性を深く学んでいる。そして今後、その取り組みはさらに強化される。フリードマンは、最近出演したポッドキャストでこう語っている。

「2023年、WBC日本代表の練習を視察するため宮崎を訪れた時、その光景に圧倒された。ただの初日練習なのに2万人のファンが集まっていた。日本の野球に対する情熱は計り知れない。もしこの国で本物のファン層を築くことができれば、それは球団にとって長期的な大きな財産になる。次の大谷、山本、佐々木、になり得る。

 8歳、9歳、10歳の子どもたちがドジャースの帽子をかぶり、いつかドジャースの一員になりたいと思えるような環境を作りたい。日本でのブランドとファン層を拡大するためにできる限りのことをする」

 単なる一時的な戦略ではなく、日本とドジャースの結びつきをさらに強める長期的な方針だ。

 そもそも今の3人がドジャースのユニフォームを着ているのも偶然ではない。ドジャースは長年にわたりスカウトを頻繁に派遣し続け、人脈を築いてきた。よく知られているように高校3年時の大谷は日本ハム入りを決める前は、ドジャース入りを真剣に考えていた。佐々木に関しても、高校時代から20〜30試合を現地で視察するほど、継続的に追い続けていた。こうした長年の努力が実を結び、大谷と10年契約、山本と12年契約を結ぶに至った。佐々木に関してもメジャーのFA権取得までの6年間、その保有権を持つことになった。

 野茂と石井がドジャースでともにプレーしたのは3年間だったが、今の3人は最短でも6年間は一緒にプレーすることになる。その間にどれほどの成果を残せるのか、期待は膨らむ。

 ただひとつ、確実に言えるのは、野茂が2002年と2003年にフル稼働し、2年間で67試合に先発、438.2イニングを投げ、32勝19敗を記録したようなことは、もう起こらないということだ。MLBにおける投手の起用法が大きく変わったからである。

 かつては、5人制ローテーションが一般的で、先発投手は年間30試合以上に登板し、200イニング超えを目指すのが理想とされていた。しかし今では、長いイニングを投げるよりも、短いイニングでも全力で投げ、相手打線を封じ込めることが求められる時代になった。球団側も「投手の故障は避けられない」という前提でチームづくりを進めるようになり、ドジャースも今オフ、かつてないほど分厚い投手陣を構築した。その結果、先発として計算できる投手が12人も揃っている。

 この充実した投手陣のおかげで、大谷の復帰を急がせる必要もない。焦ることなく、じっくり調整し、最も重要な10月のポストシーズンに万全の状態で臨むことが大切なのだ。

著者プロフィール

  • 奥田秀樹

    奥田秀樹 (おくだ・ひでき)

    1963年、三重県生まれ。関西学院大卒業後、雑誌編集者を経て、フォトジャーナリストとして1990年渡米。NFL、NBA、MLBなどアメリカのスポーツ現場の取材を続け、MLBの取材歴は26年目。幅広い現地野球関係者との人脈を活かした取材網を誇り活動を続けている。全米野球記者協会のメンバーとして20年目、同ロサンゼルス支部での長年の働きを評価され、歴史あるボブ・ハンター賞を受賞している。

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