歴史的快進撃を続けるカブス今永昇太は、なぜ打たれないのか? データが明らかにする「2つの魔球」の正体 (2ページ目)

  • 三尾圭●取材・文 text by Mio Kiyoshi

【MLB全投手、全球種でナンバーワンの今永のフォーシーム】

 ピッチランバリュー(Pitch Run Value)と呼ばれる「投球得点価値」は、「ある投手が投げた特定の球種が、得点期待値 (Run Value)を減らすのにどれだけ効果的か」を測った指標だが、今永のフォーシームはタイラー・グラスノー(ドジャース)のフォーシームと並んで、MLB1位の持ち球としてランクされている。

 調査対象となった1293通りの中からMLBナンバーワンに選ばれた今永のフォーシームは、今永が投じた投球の58.3%を占めている。今永のフォーシームの平均球速は92.1マイル(約148.2キロ)で、メジャーで今季250球以上投げている242投手中172位と下位に位置する。メジャー平均より2マイル(約3.2キロ)も遅いフォーシームが効果的な武器となっている秘密は、その回転数にある。

 今永のフォーシームの平均回転数は2424回転で27位。フォーシームの回転数が増えると、ボールのホップ成分が高まり、俗にいう「ライジング・ファーストボール」になるが、今永の速球が"浮き上がる"ことはデータも証明している。

 今永のフォーシームはMLB平均よりも3.4インチ(約8.6cm)も高めに浮き上がるが、これはメジャー全体で3位の記録だ。加えて身長178cmの今永は、167.6cmの高さからフォーシームをリリースするが、このリリースポイントはMLB平均より10cm以上も低い。今永と対戦する打者は、低い位置から投げられた分だけ、余計に体感としてのホップ成分は高くなる。

 今永はメジャーに来てから、高めにフォーシームを投げる割合が増えているが、この高めへの決め球に打者のバットは空を切る。もちろん、実際には引力の影響を受けるのでボールが浮き上がることはないが、打者の感覚的には浮き上がって感じるだろう。

 カブスのクレイグ・カウンセル監督は「彼のフォーシームに対して、打者はアジャストしなければならない。上から叩かないといけない感じだ」とコメントするように、現在のMLBはフライボールを狙ってアッパースイングをする打者が多いため、今永のようにストライクゾーン高めに浮き上がるようなフォーシームに苦戦している。

 また、回転数とともに重要なのは回転効率だが、今永のフォーシームの回転効率は98.7%と無駄がない。ボールの回転数が高くても、回転効率が50%だと回転数の半分しか変化量に反映できないが、回転効率が100%に近い今永の場合は綺麗なバックスピンがかかっているために、ボールが引力に負けずに浮き上がるような錯覚を生じさせる。今永が繰り返し語っている「質のいい直球」を投げられるのは、この回転効率がいいからだ。

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