歴史的快進撃を続けるカブス今永昇太は、なぜ打たれないのか? データが明らかにする「2つの魔球」の正体 (3ページ目)

  • 三尾圭●取材・文 text by Mio Kiyoshi

【ストライクゾーンを効率よく使う魔球フォーク】

 今永と対戦する打者は高めのフォーシームに気を取られていると、低めに鋭く落ちるフォークボールの餌食となってしまう。

 そもそもメジャーにはスプリットを投げる投手が少なく、今季、スプリットを50球以上投げている投手は38人しかいない。スプリットを投げる投手の9割以上が右投手であり、左腕は3人だけで希少価値が高く、慣れない打者は困惑する。昨季までの10年間で、スプリットをシーズン100球以上投げたサウスポーが3投手しかいなかった事実が、その希少性を物語っている。

 2ストライクと打者を追い込んだ場面で、フォーシームとスプリットを投げる割合がほぼ半々。今永のフォークはフォーシームと同じリリースポイントから放られるため、打者はフォーシームとスプリットの見極めがとても難しい。

「できるだけ広くストライクゾーンを使うことを意識している。いかに低めに投げるようなメカニズムで高めに投げて、コースを予想させないかが大事」と、今永はストライクゾーンの高低をうまく使うことの大切さを力説する。

 スプリットの平均回転数は1097回転とフォーシームの半分以下であり、打者の手元で落ちる。高めに浮き上がるフォーシームも意識しなければならない打者にとって、低めに落ちるスプリットは悪夢でしかない。

 球速も落ち幅も際立つものはない今永のスプリットだが、高めのフォーシームという武器と組み合わせることで、空振り率が43.4%、三振率も36.4%で三振を奪える魔球となる。

 5月7日のサンディエゴ・パドレス戦では、フォーシームとスプリットの2球種が投球全体の93%を占めたが、「一番いい結果が出ると思われる球種を投げているだけ」と、2球種だけでもメジャーで通用することを証明してみせた。その一方で、「もしそれが打たれたら、もちろんいろんな引き出しは用意している」とバックアップ・プランも用意していることも明かした。

 4月は月間最優秀投手賞こそ逃したものの、月間最優秀新人賞を受賞した今永は、「この1カ月をもう一回やれ、と言われたらちょっと難しい話。今はものすごく上振れした数字が並んでいるが、悪くなっても『もともとそれが普通だ』と思って、やれることを継続していきたい」と、冷静に自分が置かれている立場を振り返る。

「第一印象はすごく大事なことで、ひとつ『自分はこういう人間です』と紹介できるような賞になった。これからは結果を求められるので、それに応えられるように頑張ります」

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