今永昇太はダルビッシュ有が経験した「リミッターが外れる瞬間」にたどり着けるか 「まだ自分の知らない力を発揮できるように」 (2ページ目)

  • 阿佐智●文 text by Asa Satoshi

 NPB所属の選手は契約の関係上、11月いっぱいでウインターリーグから引き上げるのだが、1月末までのレギュラーシーズンをまっとうしたなら、リーグの記録をすべて塗り替えていたことだろう。

 この年ABLを取材したが、関係者、スカウトから「彼は今年、どうして勝てなかったんだ? 今でも十分にメジャーで通用するぞ」と、称賛の声があちらこちらから挙がっていた。

 彼らの目に止まったのは、スピンのかかった今永のきれいなストレートだった。日本のバッターが国際試合で必ずといっていいほど苦戦するのは、"動く球"である。メジャーの投手は、とにかく球を動かす。ストレートとはいえ、投げる際に指を微妙に縫い目にかけたり、ずらしたりすることで、変化を加えるのだ。

 それまで動く低めのボールを中心に対戦してきた打者にとっては、今永のスピンの効いたきれいな回転のストレートは未知のボールだった。

 今永がオーストラリアに武者修行に行った2018年オフは、いわゆる「フライボール革命」の黎明期にあたる。低めに球を集めることが投手のあるべき姿とされるなか、それに対する打者の戦術として、それまでのライナー、ゴロを打つ打法から、低い球をすくい上げるスイングへと変わっていった。

 そこに今永のようなきれいな回転の、一見浮くようなストレートが来ると、フライ狙いの打者のバットは面白いように空を切った。アメリカで仕込まれた打者にとって、今永のストレートはある種の変化球のような感覚だったのかもしれない。

 オーストラリアでの見立てどおり、最高峰のメジャーリーグでも今永の「真っすぐという変化球」は大きな武器になっている。

【三振を奪いつつ球数を抑える】

 3月14日の登板後の囲み会見で、今永は「三振を奪いながら球数を少なくする」というテーマを自らに課しているとコメントした。記者から「球数を抑えるには、ゴロで打ちとることを考えるのでは?」と質問を投げかけられても、その姿勢を変えることはなかった。

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