指導者イチローとのほっこり秘話。
日系ブラジル人のマイナー選手が語る

  • ブラッド・レフトン●文 text by Brad Lefton
  • photo by Taguchi Yukihito

 まだ世界中が新型コロナウイルスの脅威にさらされる少し前の3月上旬。シアトル・マリナーズの会長付特別補佐兼インストラクターとして初めてのキャンプを迎えたイチローと、無名のマイナーリーガーとの心安らぐ出来事に遭遇した。

今年初めてマリナーズのアリゾナキャンプに参加したグン・オモサコ(写真左)今年初めてマリナーズのアリゾナキャンプに参加したグン・オモサコ(写真左) アリゾナ州ピオリア。マリナーズのスプリングキャンプで必要なのは遠慮よりもやる気だ。

 キャンプ中のある日のこと、イチローはバッティングピッチャーとして約250球を投げたあと、屋外の施設でクールダウンを兼ねてストレッチを始めた。

 寝そべりながら入念に体をほぐしているイチローの前に、突然、無名のマイナー選手が現れた。その193センチの大男は臆することなく、イチローにこう声をかけた。

「ケージで投げてくれませんか」

 すると、イチローは「いいよ」と快諾。起き上がるとケージがある練習場へと移動し、18歳の若手選手を相手に約100球を投げ込んだ。

 レジェンド相手にやる気を見せたのは、ブラジル出身の日系3世グン・オモサコ。父親側に日本人の血が流れており、広島出身の曾祖父母・面迫(おもさこ)夫妻がブラジルの田舎町に移民し農業を始め、のちにサンパウロに移り宝石店を開いた。

 その息子・光男さんは日本人のつた子さんと結婚し、さらにその息子のマルコスさんはブラジル人のジョセノさんと結婚。そのふたりの子が、イチローにバッティングピッチャーをしてもらった右打ちのグンである。

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