ファン、雄星、翔平、プロ野球へ。イチローから現役最後のメッセージ (3ページ目)

  • スポルティーバ●文 text by Sportiva
  • 小池義弘●写真 photo by Koike Yoshihiro

―― イチロー選手が熱中されてきた28年、あまりに長かったとおっしゃっていましたけど、1992年に一軍デビューされてから、フッと思い返して、このシーンが一番印象に残っているというものをぜひ教えていただければと思います。

「今日を除いてですよね。このあと時間が経ったら、今日のことが一番、真っ先に浮かぶことは間違いないと思います。ただ、それを除くとすれば......いろいろな記録に立ち向かってきたんですけど、そういうものは大したものではないというか。今日の瞬間を体験すると、すごく小さく見えてしまうんですよね。わかりやすい例を挙げれば、10年連続200本とか、MVPを獲ったとか、オールスターでどうたら......というのはホント小さなことに過ぎないと思います。今日のこの、あの舞台に立てたことというのは、去年の5月以降ゲームに出られない状況になって、そのあともチームと一緒に練習を続けてきたわけですけど、それを最後まで成し遂げられなければ、今日のこの日はなかったと思うんですよね。今まで残してきた記録は、いずれ誰かが抜いていくと思うんですけど、去年の5月からシーズン最後の日まで、あの日々はひょっとしたら誰にもできないことかもしれないというふうな、ささやかな誇りを生んだ日々だったんですね。どの記録よりも、自分のなかではほんの少しだけ誇りを持てたことかなと思います」

―― どんなチームでも、どんな状況でも応援してくれたファンは、イチロー選手にとってどんな存在でしたか。

「ゲーム後にあんなことが起こるとは、とても想像していなかったですけど、実際にそれが起きて......なかなか日本のファンの方の熱量というのは、普段感じることが難しいんですね。久しぶりに東京ドームに来て、ゲームは基本的に静かに進んでいくんですけど、なんとなく印象として、日本の方は表現するのが苦手というか、そんな印象があったんですけど、それは完全に覆りました。内側に持っている熱い思いが確実にそこにあるということ。それを表現した時のその迫力というのは、とても今まで想像できなかったことです。これはもっとも特別な瞬間になりますけど、ある時までは自分のためにプレーすることがチームためにもなるし、見てくれている人も喜んでくれるかなというふうに思っていたんですけど、ニューヨークに行ったあとぐらいからですかね。人に喜んでもらえることが一番の喜びに変わってきたんです。ファンの方々の存在なくしては、自分のエネルギーはまったく生まれないと言ってもいいと思います」

―― イチロー選手が貫いたもの、貫けたものは何でしょうか。

「野球のことを愛したことだと思います。これは変わることがなかったですね」

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