2014.06.29

13年前にグウィンが語った「イチローのバッティング」

  • 島村誠也●文 text by Shimamura Seiya
  • photo by Getty Images

 トニー・グウィン(元サンディエゴ・パドレス)の訃報が届いたのは6月16日のことだった。グウィンは1981年のドラフトでサンディエゴ・パドレスに入団し、1982年にメジャーリーグデビューを果たした。1983年に打率.309をマークすると、2001年に引退するまで19年間、打率3割以上を記録した。通算3141安打を放ち、通算打率は.338。ナショナル・リーグの首位打者に輝くこと8回。まさに、メジャーを代表する”安打製造機”として君臨していた。

54歳の若さでこの世を去ったトニー・グウィン。

「僕はバッティングに関してはけっこうな頑固者です。お墓の中に入るまで自分の打撃理論が正しいと思っていると思いますよ」

 2001年の初夏。前年にメジャー通算3000本安打を達成したグウィンに、メジャー1年目のイチローのバッティングについて質問した時、まず彼はそう語り、そして続けた。

「春のキャンプでイチローを見た時は、なんてひどいフォームなんだ、と思いました。私から見れば、やってはいけないことをすべてやっていたんです。でも、試合を通して彼のバットの操り方を見ていると、うまくやっているんです(苦笑)」

 イチローのバッティングに最初は混乱していたグウィンだったが、その口調には尊敬の念が込められていた。この年、私はグウィンにイチローのことや自身の打撃論について何度も話を聞きにいった。その卓越した打撃論と素晴らしい人格に魅了されてしまったからだ。

「あっ、また君たちですか。イチローについてまだ聞くことがあるのですか?」

 グウィンは私と通訳のヘスリング氏を見るとあきれたように笑った。いかつい風貌からは想像できない、優しさのにじむ、かん高い声だった。

「じゃあ、打撃練習が終わったら、そこのベンチへ行きますから。そうそう、この前のオールスターゲームで、イチローが英語で話しかけてきてくれましたよ」

 グウィンはそう言って、バッティング・ケージの中へ入っていった。