「野茂攻略」に情熱。トニー・グウィンの死を悼む

  • 笹田幸嗣●文 text by Sasada Koji
  • photo by Getty Images

 メジャー通算3141安打、首位打者8回、生涯打率.338の殿堂入り名選手、トニー・グウィンが、現地時間6月16日、唾液腺癌でこの世を去った。享年54歳だった。

ナ・リーグで8度の首位打者に輝いたトニー・グウィン。ナ・リーグで8度の首位打者に輝いたトニー・グウィン。

 グウィンは1960年5月9日にカリフォルニア州ロサンゼルスで生まれた。1981年にサンディエゴ州立大学からドラフト3巡目指名を受けたグウィンはパドレス一筋で20年間プレイ。打率3割をマークすること19回。打率が3割に満たなかったのはメジャーデビューした1982年(打率.289)だけであり、現役最後となった2001年も71試合の出場ながら打率.324をマークするなど、"安打製造機"の名を欲しいままにした。

 引退後は母校であるサンディエゴ州立大学の野球部監督を務め、高校時代は無名だったスティーブン・ストラスバーグ(ナショナルズ投手)をメジャー屈指の逸材へと育て上げたことでも有名だ。

 そのグウィンを初めて取材したのは1995年のことだった。彼の言葉を今でも鮮明に覚えている。

「ヤツにはたったふたつしか球種がない。だが、それが厄介なことなんだ。たったふたつしかないのに、どっちのボールが来るかまったくわからないんだから」

 グウィンが言った"ヤツ"とは、この年ドジャースでメジャーデビューを果たした野茂英雄のことだ。そしてたったふたつの球種とは、ストレートとフォークである。

 人並みはずれた動体視力を持っていたグウィンだが、「キャプテン・ビデオ」のニックネームを持つほど、ビデオで相手投手の研究を行なっていた。ビデオルームの充実に尽力したことでも有名で、昨今の球団が持ち合わせているビデオシステムの確立にも大きな影響を及ぼしたといわれている。

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