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大阪桐蔭「藤浪世代」の大型左腕は社会人で覚醒 指名確実と言われ、ドラフト特番にも出演したが... (4ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro

 調子が上がらないままシーズンは進み、ドラフトが迫ってきた。それでも「状態さえ戻れば」と期待を込めて、足繁く練習場に姿を見せるスカウトが複数いた。秋口にはホンダ鈴鹿のチーム関係者に対し、NPBのある球団がドラフト指名の意思を伝えてきた。少なくとも、会社側はそう受け取った。

 その翌日、平尾が練習に顔を出すと、指導者たちが笑顔で声をかけてきた。

「よかったな。厳しい世界だけど頑張れよ」

 まるで実感は湧かなかったが、和やかな空気は"プロ入り内定"を伝えていた。

 しばらくすると、今度はドラフト当日の生放送を恒例としているテレビ番組の制作担当者が訪れ、指名後に生出演することまで決まった。病を乗り越え、社会人で大きなチャンスをつかんだサウスポー。しかも大阪桐蔭出身で、藤浪晋太郎の同期でもある。テレビ関係者が飛びつかない理由はなかった。流れは完全にできあがっていた。

【テレビ番組出演予定もまさかの指名漏れ】

 ドラフト当日。午前の練習を終え寮へ帰ると、番組担当者が明るく声をかけてきた。

「4位か5位で指名されるようですね。おめでとうございます。のちほどよろしくお願いします」

 会見場にはテレビカメラが2台、新聞記者やカメラマンがずらりと並んでいた。指名が進むにつれ、平尾とチーム関係者も席に着き、その瞬間を静かに待った。

 ところが、濃厚と見られていたある球団からの指名がない。なんともいえない重たい空気が流れ、やがて12球団の選手選択が終了。その時、一転して神妙な表情を浮かべた番組担当者が、平尾のもとへ歩み寄ってきた。

「しんどいとは思いますが、1時間後に出演していただきますのでよろしくお願いします」

 まじか......。番組恒例の"お母さんへの手紙"も事前に平尾が書き、準備されていた。さすがにこれはカットとなったが、出演は時間を短縮し予定どおり行なわれた。

「たぶん僕の出演時間が減った分、吉田輝星の尺が長くなったと思います(笑)」

 まさかの指名漏れ──よく耳にするドラフト話だが、その当事者となってしまったわけだ。

「プロ側としたら、『絶対大丈夫』と思えなかったんでしょう」

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