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【夏の甲子園2025】聖隷クリストファーは「死のゾーン」を勝ち上がれるか 2年生左腕・髙部陸に敵将も「イメージ以上や」と驚愕 (4ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro

 つまり、敵チームの応援だというのに、髙部は自身の投球リズムをつくるのに利用したというのだ。

 7回以降、テレビ中継のモニターで登板中の髙部の表情を確認して、私は言葉を失った。髙部は明秀学園日立のブラスバンドが奏でる音楽に合わせて、リズムを刻むように首を前後に動かしていたのだ。

 その顔には、無垢な笑顔が広がっていた。まるで、野外コンサートを楽しむ、ひとりの聴衆のようだった。

 試合後、「相手チームの応援のリズムに乗って、首を動かしていましたか?」と聞くと、髙部は爽やかに笑ってこう答えた。

「そのほうが楽しく投げられるんです」

 明秀学園日立の楽器応援が始まった6回以降、髙部は3イニング連続で三者凡退に封じている。

 8回表に聖隷クリストファーが3得点を奪い、スコアは5対1に。9回裏、明秀学園日立の野上が「1個下のピッチャーに抑えられていたので、最後にガツンといったろと思った」と意地の二塁打を放つ。さらに安打が出て一、三塁とチャンスをつくったが、明秀学園日立の反撃もここまでだった。

 結局、髙部は9回を投げて被安打4、失点1で完投勝利。期待された奪三振は4に留まった。

【味方の援護を引き出す戦略眼】

 試合後、髙部に「今日は打たせて取る投球に見えました」と印象を伝えると、こんな反応が返ってきた。

「守備からリズムをつくろうと思っていたので。初戦なので、まずは野手の足を動かそうと思いました」

 つまり、金沢監督を戦慄させた「ピッチングの幅」は、チーム全体のことを考えた策略だったのだ。

 髙部の武器は、超高校級のストレートだけではなかった。横の変化だけでなく、奥行きまで使える投球術。相手スタンドの応援すら味方につけてしまうメンタリティー。あえて打たせて取ることで、味方の援護を引き出す戦略眼。

 この日は太陽が絶えず雲に隠れており、過ごしやすい天候だった。球数も107球に抑えられており、髙部は「そこまで疲労を感じていません」と明かしている。

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