【夏の甲子園2025】聖隷クリストファーは「死のゾーン」を勝ち上がれるか 2年生左腕・髙部陸に敵将も「イメージ以上や」と驚愕 (2ページ目)
視覚と脳を超越するボール。だからこそ、髙部のストレートは140キロ前後の球速であっても、空振りを奪えるのだろう。
一方、髙部を指導するベテラン指揮官・上村敏正監督は、試合前から柔和な表情で意外な内情を明かした。
「(髙部は)ものすごく気合の入る子なんですけど、緊張感もすごく持つ子なので。今日なんて食事がノドをとおらなかったみたいで......」
埼玉県出身の髙部は、中学時代に武蔵嵐山ボーイズで全国大会優勝を経験するなど、場数は踏んでいる。だが、甲子園ともなると、別次元の感覚なのだろう。
大会前、上村監督に「髙部投手にとって、どんな全国デビューになる予感がしますか?」と尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「2年生ですから、まだ弱いところもあります。体も細身ですから。とにかく、2年生で甲子園に出られたのは大きいこと。思いきってやってほしいですね。球が走らなくても、彼にとってはいい経験になると思います」
よほど状態を崩しているのだろうか......。そう勘繰ってしまうほど、弱気なトーンに聞こえた。とはいえ、大事な教え子が心配で仕方ない、親心にも感じられた。
【こんなに奥行きが使えるとは】
試合は波乱の幕開けになった。1回表に聖隷クリストファーが1点を先取。その裏、髙部が初めて甲子園のマウンドに立った。
明秀学園日立の1番打者・脇山琉維(2年)が左打席に入る。その初球、髙部がワインドアップから投じたストレートは高めに抜け、強いシュート回転がかかって脇山の右肩付近にめり込んだ。マウンド上の髙部は硬い表情で帽子を取り、脇山に謝罪した。
「初回にマウンドに上がった時、スタンドが見えるんですけど、人がいっぱいいて緊張してしまいました。気持ちが高ぶりすぎて、浮ついている感じがあって。いきなりデッドボールで、焦りました」
髙部はそう振り返る。
それでも、動揺を引きずらなかった。「周り(チームメイト)をよく見て、切り替えよう」と、犠打と三塁ゴロで二死までこぎ着ける。二死二塁で迎えた4番の強打者・野上士耀は、高めに伸びていく145キロのストレートで空振り三振に仕留めた。
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