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【夏の甲子園2025】東北学院「悲運のエース」が語るあの夏の真実 愛工大名電に勝利→出場辞退 (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro

 伊東は初対面にもかかわらず、爽やかな笑顔をたたえて登場した。身長187センチの長身で、体重は高校時代より2キロ増えて90キロある。この肉体だけでも、大器のムードが漂う。

「育英の伊藤樹くんは格上すぎて、同じ県内にいても意識できるレベルじゃありませんでした。中学生の頃から雑誌で大きく取り上げられていて、僕は『読者側』でしたから」

「もともと野球は高校で終わるつもりだったので。『とりあえず偏差値が高い高校に行こう』と考えていました」

「甲子園の開会式は、僕たちは『お客さん』という感じでした。周りを見ながら『あ、智辯和歌山だ、大阪桐蔭だ』って。テレビのなかにいた人たちがたくさんいて。みんな体格がすごくて、目をギラギラさせていましたね」

 伊東の言葉を聞きながら、私は違和感を拭えずにいた。質問に対して快活に受け答えてくれるのだが、伊東の言葉はどことなくドライで、他人事のようにも感じられる。「本当に甲子園で活躍した選手なのか?」という気さえしていた。

【愛校心も野望もなかった】

 もしかしたら、私は大きな思い違いをしているのかもしれない。そんな予感を覚え、恐る恐る伊東に聞いてみた。「もしかして、東北学院の選手たちは自分たちのことを『強い』とは思っていなかったのでしょうか?」と。

 すると、伊東は膝を打つように身を乗り出し、こう答えた。

「まったく思っていないです。そんなの、おこがましいですよ。今はわからないですけど、野球部はスポーツ推薦も特待生もまったくないですし、みんな自宅からの通学生でした。宮城は仙台育英が圧倒的で、ほかにも東北、古川学園、東陵、柴田......と強いチームがたくさんあって。自分たちなんて、とてもとても......というレベルでした」

 東北学院は、東北学院大の系列校である。仙台六大学リーグで優勝18回を誇り、岸孝之(楽天)を世に送り出している。大学のイメージと、OBに本田圭佑(西武)がいる実績もあり、私は東北学院を「甲子園に一歩届かない強豪」という位置づけで見ていた。

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