興南・我喜屋優監督はなぜ授業の重要性を訴えるのか 「高校野球は3年で終わるけど、人生のスコアボードには終わりがない」
群雄割拠〜沖縄高校野球の現在地(3)
興南・我喜屋優監督インタビュー(後編)
今のままでは高校野球は衰退すると警鐘を鳴らす、興南高校の我喜屋優監督。はたして、これからの高校野球に必要なことは何なのか。我喜屋監督に聞いた。
オリックス・宮城大弥をはじめ、多くのプロ野球選手を育ててきた興南・我喜屋優監督 photo by Sankei Visualこの記事に関連する写真を見る
【人生のスコアボードには終わりがない】
── 強豪私学は選手を全国から集める一方、公立校は部員不足の影響をモロに受け、二極化が進んでいます。
我喜屋 (2010年に)沖縄の興南が優勝した時は「ゴーヤーチャンプルー軍団」と言われたけど、地産地消が少なくなった。そうすると人気がなくなるのは当たり前のこと。特定のチームが常に勝っているから。興南の春夏連覇は全員が沖縄の人間で、南部のおじいちゃん、おばあちゃん、北部のジジイ、ババアもみんな喜んでくれました。地元に愛されて、感動させるようなチームが高校野球は大事なのです。
その延長で、社会に出てからも「あいつのおかげで助かった」「カバーリングがすごいな、あの子は」とみんなから喜ばれる。高校野球は3年で終わるけど、人生のスコアボードには終わりがないんだから。野球のスコアボードだけで頭がいっぱいの学校があるけど、人生のスコアボードまで指導者は考えてほしい。
── 沖縄ではエナジックスポーツやKBC、日本ウェルネス沖縄など新鋭の私立校が台頭しています。今は「多様性」の時代と言われますが、高校生に新しい選択肢ができるのはいいことだと思いますか。
我喜屋 それはいいことですよ。ただし僕が言っているのは、長い人生を歩むための基本は高校3年までの授業にあるよ、と。大学はそれ以上の専門、その先の社会は専門が重要になる。大学への進学と、社会を生き抜くためには、高校3年間の授業はとても大事だよっていうことなんです。その次に部活があるということを考えないといけない。
── 「文」の次に「武」が来ると。
我喜屋 逆になると、とても心配。人の子どもだから......と、するのではなくてね。親も野球バカには育てたくないと思うし、高校に入れるからには「文武両道の道を歩ませてくれる」っていう期待もある。その期待に応える意味でも、将来に向けて「なぜ授業するの? 将来の選択肢を増やすためだよ」という意味で、ちゃんと理由づけてやってくれれば、こっちが言うのは余計なことです。
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著者プロフィール
中島大輔 (なかじま・だいすけ)
2005年から英国で4年間、当時セルティックの中村俊輔を密着取材。帰国後は主に野球を取材。新著に『山本由伸 常識を変える投球術』。『中南米野球はなぜ強いのか』で第28回ミズノスポーツライター賞の優秀賞。内海哲也『プライド 史上4人目、連続最多勝左腕のマウンド人生』では構成を担当。