【夏の甲子園】鶴岡東のエースで4番・櫻井椿稀は「プロ野球選手」と「プロ野球審判」の両方を目指す (3ページ目)
高校野球の世界では、毎年のように審判の尊厳が揺らぐ出来事が起きている。SNSでは際どい判定シーンの動画や画像が出回り、審判員が猛烈な批難にさらされることも珍しくない。
負けたら終わりのトーナメント戦で、微妙な判定に納得がいかない心情も理解できる。その一方で、審判員がいるから高校野球は成立している現実も忘れてはならない。
ほぼボランティアにもかかわらず、失敗のプレッシャーや酷暑に耐えている審判員。地方部で審判員のなり手が減っているという、深刻な問題もあると聞く。
櫻井に「審判を愛する者として、SNSなどで審判員が炎上することに何か思うところはありますか?」と聞いてみた。だが、櫻井は投手特有の危機感知センサーで、この質問のデリケートさを察知したのだろう。
「いやっ、そこはとくに......」
そう答えるのみだった。私は櫻井が審判員志望の若者である前に現役の甲子園球児であることを思い出し、場違いな質問をした自分を恥じた。
鶴岡東は15日に、早稲田実(西東京)との2回戦を戦う。そして、さらに先にはどんな未来が待っているのだろうか。
プロ野球のマウンドに上がる櫻井の姿か、それとも打席に入る櫻井の姿か、はたまた捕手の背後で「プレイ!」と高らかに宣言する櫻井の姿か。
いずれにしても、審判員に興味を持つ甲子園球児がいることは、歓迎すべきことだろう。櫻井椿稀が今後の野球人生でどんなジャッジを下すのか、今から楽しみでならない。
著者プロフィール
菊地高弘 (きくち・たかひろ)
1982年生まれ。野球専門誌『野球小僧』『野球太郎』の編集者を経て、2015年に独立。プレーヤーの目線に立った切り口に定評があり、「菊地選手」名義で上梓した『野球部あるある』(集英社/全3巻)はシリーズ累計13万部のヒット作になった。その他の著書に『オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない! 野球留学生ものがたり』(インプレス)『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(イースト・プレス)『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』(カンゼン)など多数。
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