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智辯和歌山に挑んだ和歌山南陵10人の野球部員たち エースは「もうヒジがぶち壊れてもいいから頑張るわ!」と自己最速を更新した (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro

 岡田監督の言葉は強がりには聞こえなかった。現にエース右腕の松下光輝という県内でも有数の好投手を擁していたからだ。

 松下は身長176センチ、体重75キロのスリークォーターで、最速143キロのストレートは数字以上に体感スピードがある。初戦の紀北農芸戦では8回を投げ、12奪三振無失点と危なげない投球を見せている。

 そんな松下も今年1月に右ヒジ痛を発症し、何とか今夏に間に合わせた経緯があった。部員が10人しかいないことで、「自分が試合に出なければ」という責任感が故障を悪化させるリスクもあったはずだ。それでも、松下は「10人やからこそ練習の効率が上がったり、チームワークができたりしたので、部員が少ないことは悪いとはとらえていません」と気丈に語った。

【自己最速の146キロをマーク】

 松下は智辯和歌山の強打線を三者凡退に抑える快調な立ち上がりを見せる。ところが、2回裏の守備に落とし穴が待っていた。2つのエラーが絡み、智辯和歌山に2点を先取される。智辯和歌山はこの日に先発した2年生エースの渡邉颯人ら複数の好投手を擁するだけに、序盤から重い失点になってしまった。

 それでも、この日も和歌山南陵の応援スタンドは元気だった。2回の攻撃開始前には「レゲエ校歌」が場内に流れた。バックネット裏スタンドは相変わらず困惑したムードだったが、和歌山南陵の応援スタンドでは校歌のリズムに合わせてタオルを左右に振る観衆が続出。上半身ユニホーム姿の甲斐理事長は一際大きな声を張り上げ、普段は物静かという和歌山南陵唯一の女子生徒・西はどすの効いた大声で「打ち返せ〜!」と叫んだ。

 5回表の攻撃では、山塚虎大朗と大田拓実の連打でチャンスをつくり、和歌山南陵スタンドの盛り上がりは最高潮に達した。それでも、智辯和歌山の堅い守備陣から得点をもぎとることはできなかった。

 その裏、ここまで奮闘してきた松下が智辯和歌山の上田潤一郎に本塁打を浴びるなど、5安打5失点と崩れる。得点差は7に広がった。

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