あわや20年ぶりの快挙から一転 広陵・髙尾響は昨夏に続くタイブレークでの敗戦で何を学ぶのか
野球の勝敗は、数値で表わせないもので決まることがある。たとえば、勢い、流れ、運......などなど。広陵(広島)と青森山田(青森)との一戦は、最後まで展開の読めない激闘となった。
タイブレークの末、青森山田に敗れた広陵・髙尾響 photo by Ohtomo Yoshiyukiこの記事に関連する写真を見る
【7回までノーヒットの快投も...】
終盤まで0対0の投手戦となった。先に点を奪ったのは、先攻の広陵だった。8回表、二死二、三塁のチャンスで、7番打者の白髪零士がタイムリーヒットを放ち、さらにレフトのエラーで計2点を挙げた。
7回まで青森山田打線をノーヒットに抑えていたエースの髙尾響のピッチングを考えれば、これで勝負ありと思われた。もしノーヒット・ノーランを達成すれば、2004年のダルビッシュ有(東北)以来。そんな快挙も頭をよぎった。
しかし直後の8回裏、代打で登場した青森山田の蝦名翔人が左中間にチーム初ヒットとなるツーベースを放った。9番打者がバント失敗。これで広陵に流れが傾くかに思われたが、髙尾が1番、2番とつづけてフォアボールを与えて一死満塁のピンチを招く。つづく3番・對馬陸翔(つしま・りくと)のライト前ヒットで2対2の同点に追いついた。
ベンチで広陵の中井哲之監督は、選手たちにこう言っていた。
「この試合は1点勝負になる。気持ちが強いほうが勝つぞ」
広陵のキャッチャー・只石貫太が、髙尾のピッチングをこう振り返る。
「よかったところはコントロールです。ストレートのキレもよかった。4まわり目になって、髙尾のボールの軌道に相手が慣れてきたのかもしれません。ノーヒット・ノーランを意識したということもないし、1本ヒットを打たれたからといって動じるようなピッチャーではありません」
しかし、これまで幾多の修羅場をくぐり抜けてきた高尾にしては、"らしくない"ピッチングだった。
9回表、今度は広陵がワンアウトからヒットとフォアボールでチャンスをつくり、3番の土居湊大がタイムリーヒット。4番の只石のセンターライナーが好捕されたあと、5番の世古口啓史がセンター前に弾き返して3点差をつけた。
残るは9回裏だけ。甲子園球場で観戦していた多くのファンは、広陵の勝利を確信したことだろう。ところが、簡単に勝負は決まらない。
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プロフィール
元永知宏 (もとなが・ともひろ)
1968年、愛媛県生まれ。 立教大学野球部4年時に、23年ぶりの東京六大学リーグ優勝を経験。 大学卒業後、ぴあ、KADOKAWAなど出版社勤務を経て、フリーランスに。著書に『荒木大輔のいた1980年の甲子園』(集英社)、『補欠の力 広陵OBはなぜ卒業後に成長するのか?』(ぴあ)、『近鉄魂とはなんだったのか? 最後の選手会長・礒部公一と探る』(集英社)など多数。2018年から愛媛新聞社が発行する愛媛のスポーツマガジン『E-dge』(エッジ)の創刊編集長