京大法学部から社会人野球名門へ 水江日々生は「定数を変える思考回路」で入部を勝ちとった (4ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro

 水江は「自分はこの言葉で育ってきたようなものです」と笑う。地に足の着いたビジョンを持ち、明確な結果を残すために努力してきた。

「体って、定数か変数かで言えばほぼ定数だと思うんです。生まれつき大きい、小さいと個人差があって、変えにくい。でも、僕らが勝とうと思ったら、『定数を変える』くらいの思考回路にならなければ難しいんです」

 入部当初は「130キロで抑える方法」を考えた時期もあったが、「体が大きくなくてもなんとかなる」とトレーニングに励んだ。その結果、水江は大学4年時に最速145キロを計測するまでに進化している。水江の「定数を変える思考回路」を受け継ぐ者がひとりでも多く現れれば、京大のリーグ優勝は近づくはずだ。

 今年の京大は水江以外にも卒業後に野球を続ける者がいる。投手陣では染川航大が三菱自動車倉敷オーシャンズへ、川渕有真が富山GRNサンダーバーズへ。そして2022年の正捕手であり、今年度は就職浪人していた愛澤祐亮がJPアセット証券でプレーを継続することになった。4名が京大卒業後も野球を継続するのは、異例中の異例だ。

「プロや社会人野球を目指すような選手が出てこないと勝てない」

 そう語っていたのは、京大の青木孝守総監督だ。2022年ドラフト会議では水口創太がソフトバンクに育成指名されており、まさに言葉どおりの展開になってきた。

 水江は今後に向けて、「自分なりのよさを出していきたい」と決意を語る。恩師の近田も「下級生時に投げていたカーブをまた使えるようになれば、十分に通用する」と太鼓判を押す。

 アマ最高峰の舞台で己の実力を証明するために。水江日々生はこれからも「定数」を打ち壊していく。

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【目次】

はじめに 主な登場人物

第1章 元プロ野球選手の鉄道マン

第2章 京大で野球をやる意味

第3章 元生物部の「クソ陰キャ」

第4章 京大生はなぜケガが多いのか?

第5章 頑なに関西弁を拒む主将の改革

第6章 「ソルジャー」近大への復讐

第7章 野球ヲタ投手コーチの落とし穴

第8章 ヘラクレスの引退騒動

第9章 ラストゲーム

第10章 京大野球部が優勝する日

おわりに

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プロフィール

  • 菊地高弘

    菊地高弘 (きくち・たかひろ)

    1982年生まれ。野球専門誌『野球小僧』『野球太郎』の編集者を経て、2015年に独立。プレーヤーの目線に立った切り口に定評があり、「菊地選手」名義で上梓した『野球部あるある』(集英社/全3巻)はシリーズ累計13万部のヒット作になった。その他の著書に『オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない! 野球留学生ものがたり』(インプレス)『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(イースト・プレス)『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』(カンゼン)など多数。

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