ドラマ『下剋上球児』放送後の反響 南雲脩司のモデルとなった熱血教師は「免許持ってんの?」と問われる日々 (2ページ目)
東、高橋とともにその食堂『月壺』に昼食をとりにいくと、店主の大森久美子さんが「先生、昨日は焦りましたわ〜!」と笑顔で迎えてくれた。店内に居合わせた客からは「『下剋上球児』の東先生ですか?」と声をかけられ、写真撮影に応じるシーンもあった。東の周辺ではちょっとした「下剋上球児ブーム」が起きている。
2018年夏に甲子園出場したあとも、東は白山を三重県大会ベスト4、ベスト8に頻繁に顔を出すチームへと育て上げていた。それでも、異動願を出して昴学園へと転任したのには理由がある。
昴学園は三重県の公立高校だが、その中身はかなり特殊でユニークだ。「全国唯一の県立で全寮制の総合学科高等学校」を謳い、1学年定員80名の生徒のほとんどが寮で生活する。
昴学園があるのは三重県南西部の多気郡大台町。町全域が生物多様性の保護を目的としたユネスコエコパークに登録されている。校舎のすぐ脇に流れる一級河川の宮川は、水面に雲が映るほど美しい清流だ。町の面積の9割を森林が占めており、昴学園の校庭から四方を見渡すと緑が常に視界に入ってくる。
東にとって、この自然豊かな環境は教員としての原点だった。
【大台町に恩返ししたい】
「大学を出た後、母校の久居高校で講師をしながら野球部のコーチをしていたんですけど、5年も教員採用試験に受からなかったんです。『このままじゃダメだ』と思っていたところで、昴学園に勤めていた竹内伸さん(現・松阪監督)が声をかけてくれて。ここで寮監をしながら勉強して、絶対に受かるんやと思っていました」
教員住宅の部屋に持ち込んだのは、机と勉強用の書籍くらい。テレビもない環境で勉強に打ち込んだ。夜な夜なひとりで食べたラーメンの味が忘れられないという。同年に東は教員採用試験に合格している。
白山は10年連続で夏の三重大会初戦敗退の弱小校だったが、昴学園はそれを上回る。東が寮監兼野球部コーチとして勤めた2006年夏に1勝を挙げたのを最後に、昴学園は16年連続で夏の三重大会初戦敗退を続けていたのだ。それでもなぜ、東は昴学園に異動したのか。
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