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「高校野球は変革の時。監督も勉強をし直す必要がある」PL学園元監督・中村順司と帝京名誉監督・前田三夫の指導論 (4ページ目)

  • 藤井利香●取材・文 text by Fujii Rika
  • 村上庄吾●撮影 photo by Murakami Shogo

●高校野球の変化と違和感

中村 野球というスポーツはポジションによって役割が違うじゃないですか。打順もそうだし、それぞれ自分がそこで何をすべきかを考えながらプレーする。これは社会に出た時にも同じです。野球人口が減少するなか、私たちもこうした野球のよさを広く子どもたちに伝える活動ができたらといいですね。

前田 ところで、来年から金属バットの仕様も変わり、高校野球も変革の時を迎えています。指導者も再度、野球を勉強し直す必要があるでしょうね。

中村 一方で、今はバッティングフォームもいろいろで、打つ時に人差し指を立てて握っている選手を非常に多く見かけ、驚いているんです。これは流行なのかな。でも鉛筆や箸を持つ時の基本が人差し指であるように、指先の感覚ってすごく大事なはず。古いことを言っていると思われるかもしれないけど、この機会にあらためて勉強してほしいですね。

前田 キャッチャーの動きが大きい選手に、セカンドに入れてゲッツーの練習をさせたりしたんですが、野球の視野を広げるという意味でも私はよく全部のポジションを経験させました。

 各ポジションの大変さがわかるし、野球は考えれば考えるほどおもしろくなるはずなんです。グローブの扱いも足さばきも走塁も、どれも考えるから楽しくなる。そこを指導者が教えてあげてほしいなと思います。

ふたりの監督時代の思い出話は尽きなかったふたりの監督時代の思い出話は尽きなかったこの記事に関連する写真を見る中村 PLでは、かつて他の競技を見せたりもしました。相撲部屋に連れて行って稽古の様子を見学したり、地元に女子バレーボールの人気チームがあって、回転レシーブとかすごい練習をしていたんです。それを間近で見ることは、いい刺激になったはずですよ。

前田 今は情報量も多いし、練習方法はいろいろありますね。我々の時代とは違いこれからの指導者は大変なことが多いでしょうが、ぜひ頑張って高校野球の発展に貢献してもらいたいと切に思います。

中村 指導者にとっての喜びって、甲子園も思い出なんだけど、やはり選手が卒業して各方面でがんばっている姿を見る時です。今となっては、そう強く思いますよ。(とんねるずの)石橋(貴明)君なんか、帝京の3年間をのちの人生で活かしている典型じゃない?

前田 それはまたちょっと違った意味で長所を伸ばしたというか(笑)。

ふたりが監督として甲子園で直接対決した1987年から長い年月が経ったふたりが監督として甲子園で直接対決した1987年から長い年月が経ったこの記事に関連する写真を見る終わり

前編<PL学園と帝京の名将が振り返る直接対決 中村順司「帝京はPLの弱点を狙わなかった」前田三夫「やったところで勝てる相手じゃない、真っ向勝負ですよ」>を読む


中編<PL学園・中村順司と帝京・前田三夫が甲子園のベンチからにらみ合い「あれはなんだ?」「大変失礼なことをしました」>を読む


【プロフィール】
中村順司 なかむら・じゅんじ 
1946年、福岡県生まれ。自身、PL学園高(大阪)で2年の時に春のセンバツ甲子園に控え野手として出場。卒業後、名古屋商科大、社会人・キャタピラー三菱でプレー。1976年にPL学園のコーチとなり、1980年秋に監督就任。1998年のセンバツを最後に勇退するまでの18年間で春夏16回の甲子園出場を果たし、優勝は春夏各3回、準優勝は春夏各1回。1999年から母校の名古屋商科大の監督、2015〜2018年には同大の総監督を務めた。


前田三夫 まえだ・みつお 
1949年、千葉県生まれ。木更津中央高(現・木更津総合高)卒業後、帝京大に進学。卒業を前にした1972年、帝京高野球部監督に就任。1978年、第50回センバツで甲子園初出場を果たし、以降、甲子園に春14回、夏12回出場。うち優勝は夏2回、春1回。準優勝は春2回。帝京高を全国レベルの強豪校に育て、プロに送り出した教え子も多数。2021年夏を最後に勇退。現在は同校で名誉監督を務めている。

著者プロフィール

  • 藤井利香

    藤井利香 (ふじい・りか)

    フリーライター。東京都出身。ラグビー専門誌の編集部を経て、独立。高校野球、プロ野球、バレーボールなどスポーツ関連の取材をする一方で、芸能人から一般人までさまざまな分野で生きる人々を多数取材。著書に指導者にスポットを当てた『監督と甲子園』シリーズ、『幻のバイブル』『小山台野球班の記録』(いずれも日刊スポーツ出版社)など。帝京高野球部名誉監督の前田三夫氏の著書『鬼軍曹の歩いた道』(ごま書房新書)では、編集・構成を担当している。

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