国立大の野球部主将が侍ジャパン大学代表候補に。合宿で手にした「土産」の価値 (3ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 だが、最後はあっけなかった。外角の148キロのストレートにバットを止めたはずが、チョコンと当たり力ないファーストゴロに。原は「止めきれなくて、自分のスイングができませんでした」と悔しそうに振り返った。

 3日間の合宿をとおして、どんなことを感じたのか。そう問うと、原はよどみなくこう答えた。

「今まではひとつ手の届かない場所だと思ったところに来てみて、多少なりともやれると思いましたし、本来の力を出せたら問題ないと思えました。でも、いざ発揮できない自分の技術やメンタリティーを含めて、力不足だと感じました。まだまだ、上がいるなと」

 もっとこんなプレーができるのに。技術への自信があればもっとうまくコミュニケーションがとれるかな......。いつしか、原の頭のなかは、自分自身のことばかりで占められていた。

 だが、大学球界のトッププレーヤーはその点で原とは決定的に違った。

「同じショートの辻本くん(倫太郎/仙台大)も宗山(塁/明治大)もプレーがうまいのはもちろんですけど、細かな部分に気がついて、コミュニケーションをとるうまさがありました。合宿で自信を持ってプレーできる選手はいろんなことに気づけて、視野が広い。自分も大学では引っ張っていく立場で視野が広いほうだと思いますが、合宿では邪念が出て周りが全然見えてなかった。そこは大きな差でしたね」

【チームメイトに伝えたいこと】

 19日に発表された大学代表選手26名のなかに、原の名前はなかった。

 鹿屋に戻ったら、チームメイトにどんなことを伝えたいか。そう聞くと、原は喜々とした表情でこう答えた。

「チーム力はどの大学にも負けてない自信があるんですけど、個々のレベルがまだ低いと感じました。でも、個人の力がアップすれば、もっと強い集団になれるはず。そこを伝えたいですね」

 原は「それと......」と、つけ足すようにこう続けた。

「いろんなところに気を配れる選手になろう、ということも言いたいです」

 原が得た経験は、自分だけのものではない。原が鹿屋体育大の仲間に伝え、戦いをとおして同じ連盟のライバルにも伝わる。それが大学野球界全体のレベルアップにつながっていく。これもまた、有望選手が一堂に会する合宿の意義だろう。

 社会人で野球を継続する予定の原は、秋のシーズンも第一線で戦い続ける。大きな「土産」を得た鹿屋体育大が秋にかけてどんな進化を見せるのか、今から楽しみでならない。

プロフィール

  • 菊地高弘

    菊地高弘 (きくち・たかひろ)

    1982年生まれ。野球専門誌『野球小僧』『野球太郎』の編集者を経て、2015年に独立。プレーヤーの目線に立った切り口に定評があり、「菊地選手」名義で上梓した『野球部あるある』(集英社/全3巻)はシリーズ累計13万部のヒット作になった。その他の著書に『オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない! 野球留学生ものがたり』(インプレス)『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(イースト・プレス)『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』(カンゼン)など多数。

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