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仙台育英に漂う王者の風格 「慶應は特別な存在」「劣勢にも理想的な展開」で慌てず騒がずタイブレークで勝利 (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 バックネット裏の記者席から見る限り、仙台育英こそ「アウェー」に見えた。5回裏に髙橋煌稀のタイムリーヒットで先制したものの、慶應義塾は毎回のようにランナーを得点圏に進め、アルプススタンドのボルテージはますます高まっていく。しとしと降り注ぐ雨にも、慶應義塾スタンドの炎が鎮火する気配はなかった。

 だが、そんな球場の雰囲気も含めて、須江監督にとっては「想定内」だった。

「慶應義塾さんが日本の社会において、政治・経済などさまざまな分野でどれくらいの影響力を持っているか、どんなOBがいるかをミーティングで丁寧に説明しました。慶應さんは特別な存在だから、その熱量は今まで僕らが経験したことのないものがあるよと。おそらく球場を包み込むような感じになるから、それを楽しもうという話をしました」

【タイブレークか一発ホームラン】

 1対0と競った展開になった試合中盤。須江監督は控え選手を集めて「タイブレークになるかもしれない」と伝え、心の準備をさせた。試合を戦うなかで、「この試合が求めるもの」がうっすらと見えてきた。

「慶應の小宅くん(雅己/2年)のピッチングが、秋の映像よりも一段上だったんです。最初は4〜5点くらいのゲームを想定していたんですけど、競る展開も十分にあるなと。僕はこの試合が求められているのって、『タイブレーク』か『一発ホームラン』だと思ったんです。でも、ウチはホームランが打てる打線ではない。ここ3日間は徹底的にタイブレークの練習をしてきました」

 1対0と仙台育英が1点リードして迎えた9回表。それまで三塁側アルプススタンドを中心に発生していた手拍子が、バックネット裏の一塁側まで伝播するようになっていた。一死二塁から慶應義塾の代打・安達英輝がレフト前に落ちるヒットを放つと、歓声は絶叫へと変わった。

 仙台育英の2年生レフト・濱田大輔は打球を捕ると、すぐさまホームに向かって送球した。到底間に合うはずのないタイミングだったが、こんな状況でも平常心でプレーできる選手のほうが稀だろう。

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