帝京名誉監督・前田三夫が指導者人生を振り返る。名将の礎となったのは「選手時代の万年補欠」 (2ページ目)

  • 藤井利香●取材・文 text by Fujii Rika
  • 村上庄吾●撮影 photo by Murakami Shogo

 さらに遡れば、木更津中央高の1年生の時、自分の小遣いで買った金田正一の自伝が印象深いという。当時、国鉄スワローズの怪腕投手として活躍していた金田。本のタイトルは『やったるで!』。学生時代やプロ入りしてからの話は、とにかく豪快そのものだった。

「教科書を開いているふりをして、授業中にこっそり読んでいました。非常に面白く、インパクトがあった。こんなふうに生きられたらいいなと夢と希望を与えてくれた本。私は元来、自分ことは自分で考え行動するタイプですが、壁にぶつかった時に大きな力になってくれたのが本です。折々に引っ張り出して、自分を鍛え直すためのヒントをもらいました。

 今回著書を出すことを決めたのは、私のしてきたことがどの程度のものなのかはわかりませんが、50年も積み重ねればそれなりにいろいろある。それを包み隠さず出すことで、読み手が何かを感じ取ってくれるかもしれない。私自身がそうであったように、それを人生のどこかで活かしてくれたらこれほどうれしいことはないなと、思ったからです」

 生い立ちから綴り、指導者になってからの1年1年をあらためて思い起こしながら、猪突猛進、時に無謀とも思える行動を取った自分に呆れたことも。一方で、「社会のあり方が変わった今だったらできなかったことも多い。自由に、力いっぱい高校野球指導に関われたことはとても幸せだったと思う」と、振り返る。

この記事に関連する写真を見る 物質的にも恵まれないなかでチームをゼロからつくり上げ、名門校に育てた前田監督。いい選手が来てくれればそれに越したことはないが、トップクラスでなくても時間と労力を惜しまず、たたき上げで一流に育てる指導が好みだった。

 今やスパルタは完全否定されて通用しないが、エネルギッシュに挑み続けた日々はいつの時も躍動感に溢れている。そして、誰よりも厳しい指導者と言われたが、笑えるエピソードが多いのは、この人ならではだと納得である。

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