野球人生最大の挫折を乗り越え、聖光学院・山浅龍之介が目指す世代ナンバーワン捕手の座 (2ページ目)

  • 田口元義●文・写真 text & photo by Taguchi Genki

 一段、一段、着実に階段を登れていると実感できていた。だからこそ、あの夏の終焉は、山浅に絶望感を与えるには十分すぎた。

 同じく同級生ながらメンバー入りし、寮でも同部屋だった佐山未來と「秋は頑張ろうな」と励まし合うが、重苦しい空気は拭えなかった。新キャプテンの赤堀颯からの「悔しいのはおまえらだけじゃねぇ!」と気合を注入され顔を上げることができたが、練習中にバットを握ると、あの場面がどうしてもフラッシュバックしてしまう。

「ちょこちょこじゃなくて、わりと頻繁にですね。バッティング中とかも、負けた日のことが浮かんできたりしました。そのたびに、『もうあんなことがないように、もっとうまくなろう』って集中するようにはしていたんですけどね」

世代屈指の捕手に成長

 秋の大会を迎える頃には「新しい自分をつくり出す」と前向きになれたつもりでも、時が過ぎ冷静に自分を顧みると「まだ引きずっていたな」と思わざるをえなかった。

 山浅はそれを、無理に振り払うのをやめた。逃げるより、受け入れる。苦難に立ち向かうことを選択したのである。

 寮の自室に敗戦の記事を貼る。スマホには屈辱を味わった日、<7.20>の画像をすぐ見える位置に残した。そして、目を背けてきたニュースのハイライトも見るようになり、知人からは自分が三振した瞬間やバッターボックスで泣き崩れる写真をもらった。

 なにより、相手への接し方が変わった。自分を気遣い励ましてくれていた3年生にも、「あの瞬間は忘れられないっす!」と明るく振る舞えるようになっていった。

「向き合わないと前に進めないんで」

 山浅の精神がたくましくなった。

 昨年秋の大会で存在感を示す。「ポップタイム」と呼ばれる、ピッチャーからのボールを捕球後の二塁送球タイムが、プロ野球選手でも速いとされる1.8秒台前半と、素早く正確なスローイングが際立つ。福島大会から東北大会決勝までの10試合で、山浅が牽制球でランナーを刺したのはじつに5回。目の肥えた高校野球ファンの視線を集めた。

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