因縁の鹿児島実に1点差惜敗も、大島高校バッテリーの決断と奮闘は奄美大島の野球の歴史を変えた

  • 菊地高弘●文・写真 text & photo by Kikuchi Takahiro

 このままでは終われない。そんな焦りが、大野をいつしか孤独にしていた。甲子園に出られた満足感からか、練習に身が入らない部員もいるように見えた。奄美大島の人々からの期待を感じるたびに、大野は「自分がやらないといけない」というプレッシャーに押しつぶされそうになった。

「正直言って、春のセンバツが終わってから『逃げたいな』と思った時期はありました。期待されて、なかなか応えられなくて、キツイなと思ってしまって」

 チーム内には誰も大野に口出しできないムードが充満していた。センバツ後の春季九州大会初戦・小林西戦。思うような投球ができない苛立ちを大野はマウンドで隠そうともしなかった。その試合後、大島は3年生を中心に「本音をぶつけ合おう」と選手間のミーティングを開いた。

 先陣をきったのは、サードを守る前山龍之助だった。「苛立ちを表情に出すなよ」という前山の言葉に、大野は「自分はひとりではない」と気づかされた。

「苦しい時でもみんなが助けてくれたので。最後は『チームのために』と思って、投げられるようになりました」

因縁の鹿児島実に1点差の惜敗

 夏の鹿児島大会準々決勝・出水中央戦では大野が12安打を浴び、6失点と打ち込まれた。それでも、打線がエースを救った。4対6と2点を追う9回裏には、3点を取り返して逆転サヨナラ勝ちを飾っている。

 準決勝の国分中央戦では、今度は大野が快刀乱麻の投球を披露。7回13奪三振の完封勝利で7回コールド勝ちを収めた。

「絶対に夏の甲子園に行くんだと、チームは今、一番いい雰囲気になっています」

 国分中央戦の直後、大野は晴れやかな表情でそう語っている。

 大野、西田バッテリーにとっては、あとは進学するか迷った名門・鹿児島実を破って甲子園に行くだけだった。

 運命の決勝戦。1回表の立ち上がりにヒットを許した大野を助けるべく、捕手の西田が盗塁を刺す。3回表にはバント処理で悪送球を犯した西田を助けるべく、大野が連続奪三振でピンチを切り抜ける。

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