センバツで初のベスト4。國學院久我山の「学生コーチ」だった尾崎直輝監督の指導理念は「選手のミスは監督の責任」 (3ページ目)

  • 元永知宏●取材・文 text by Motonaga Tomohiro
  • photo by Sankei Visual

監督と選手の緩衝材になる

 3学年で60人以上もいる部員を監督と部長だけで束ねるのは難しい。そこで尾崎に、"中間管理職"としての重要な役割が与えられたのだ。

「監督からトップダウンで指示が下りることが多かったんですが、選手たちは選手たちでいろいろなことを考えています。『今日は守備練習で』とメニューを伝えたら、『どうして? バッティング練習のほうがいいんじゃない?』と言われることもありました。だから先輩たちに聞かれた時に、どう答えるかをちゃんと考えるようになりました。『監督さんの意図はこうだと思います』と」

 今から15年ほど前には、練習の内容や意図をかみ砕いて説明する指導者は少なかった。指導者の指示に「はい!」と元気よく答えるのが高校野球の普通の風景だった。

「僕は伝達係に過ぎないので、監督に質問するのは難しかった。だから、選手が『監督は俺たちに何をやらせたいの?』とならないように、先回りして話をするようにしていたんです」

 権限を持たない尾崎は、両者の"緩衝材"になることを心がけた。

「いつも監督のそばにいると、現状について思っていることをポロッと言ってくれる時があるんです。そうして、少しずつ監督の考え方を学んでいきました。『指導者はいまのチームに対してこんな考え方をしているけど、選手はこう思っている』というのがわかってきました」

 難関大学への進学率が高い中高一貫の進学校である國學院久我山には、練習時間の制限がある。18時30分に、野球部もサッカー部もラグビー部も、学校の敷地から出なければならない。平日の放課後に練習できる時間は2時間半か3時間程度だ。

 だから、限られた時間で何をするのか? その日の優先順位は何か、ということが大事なのだ。監督が必要だと思うメニューと選手たちがやりたい練習をすり合わせて、甲子園を目指して戦った。しかし、尾崎は高校時代、甲子園に出ることなくユニフォームを脱いだ。

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