ルパンのように技術を盗み、カメレオンのように擬態する男・大阪経済大の151キロ右腕は「カッコええ」プロを目指す (2ページ目)

  • 菊地高弘●文・写真 text & photo by Kikuchi Takahiro

 登板後に話を聞くと、才木は自身の考えを語り始めた。

「ブルペンでは体の使い方を覚えたいから、いろんな投げ方を試しているんです。たとえばサイドで投げると、肩甲骨を大きく使える。下半身もあえて開いて投げたり、ほかの選手のマネをしたり、いろいろと試してます」

 そして、才木はこう続けた。

「カメレオンみたいなもんです」

 普通の投手なら「投球フォームを固める」という考え方が一般的だろう。だが、才木は「引き出しを増やしたい」と、さまざまな動きにチャレンジしている。なぜなら、肉体が変化しているからだ。

「ここ(大学)に入った時は68キロだったんですけど、今は86キロあります。体はある程度は完成形に近づいていると思うんですけど、それに伴って使い方も変わってきてるので。今まで気合と根性だけでやってきましたけど、今は自分の体に合った投げ方を探しているところです」

 いろんな体の使い方を試すことで、元の投げ方を忘れてしまう恐怖はないのだろうか。そう聞くと、才木はあっけらかんとこう言った。

「そこは割りきって、思いきって投げるしかないです。同い年の吉田(輝星)や柿木(蓮/ともに日本ハム)も、プロに入ってフォームが変わっていってるじゃないですか。『この投げ方じゃないと無理』というピッチャーは、プロではダメやと思います」

 大谷翔平しかり、一流のアスリートは変化を恐れない。才木にもそのマインドが備わっているように感じられた。

「才木が敬語を使えてる!」

 話を聞けば聞くほど、どうしてこんなユニークな思考の持ち主が誕生したのか気になってしまう。北海道の高校に通ったのにコテコテの大阪弁を話すのは、大阪府豊中市で生まれ育ち、高校だけ北海道に越境入学した「野球留学生」だったからだ。

 中学時代の自分を振り返り、才木は「ラクな道に逃げていた」と総括する。

 大阪といえば中学硬式クラブチームの激戦区だが、才木は「練習がキツいのはイヤやった」と学校の準硬式野球部へ。先輩にも教師にも敬語を使ったことはなく、「勉強からも逃げた」と学業成績も悪かった。

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