2022.03.22

甲子園に異様な光景。山梨学院「バントシフト」の発案者はあの人物、パワー全盛の高校野球に一石を投じた

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

タイブレークでのバントシフト

 それは異様な光景だった。

 1対1の同点で迎えた延長13回裏。後攻の木更津総合のタイブレークに入る際、山梨学院は思いきったバントシフトを敷いた。

 一塁側のフェアゾーン前方にふたりの野手が並ぶ。ひとりはファーストの高橋海翔で、もうひとりはセカンドの鈴木斗偉と思いきや、鈴木は定位置に守っている。高橋の隣にいるのは、センターの岩田悠聖だった。本来のセンターのポジションにはライトの星野泰輝が入り、ライトにはぽっかりと無人地帯ができた。

タイブレークで極端なバントシフトを敷いた山梨学院タイブレークで極端なバントシフトを敷いた山梨学院 この記事に関連する写真を見る  甲子園球場のバックネット裏には、どよめきが広がった。選抜高校野球大会(センバツ)にタイブレークが導入されて5年目。今までにない光景に、自然とスタンドの観衆は前のめりになっていった。

 木更津総合の打者は3番の菊地弘樹。右の強打者だが、ここで木更津総合の五島卓道監督は菊地に強攻策を指示する。

「相手の陣形を見て、バントからヒッティングに切り替えました。できればライト方向に打ってほしいなと」(五島監督)

 一方、バントシフトを敷いた山梨学院の吉田洸二監督には、こんな狙いがあった。

「私たちの攻撃が0点に終わり、1点取られたら終わりですので、相手の作戦を『バント』から『打つ』に変えたいと思いました。相手の打ちミスにかけるためのシフトでした」

 打球がライトに飛んだら終わり。それでも、吉田監督は「右打者のインコースを突けば、ライトに飛ぶリスクが減る」と勝算があった。山梨学院バッテリーは菊地のインコースを攻め、レフトフライに打ち取った。

満塁策もまさかの結末

 だが、山梨学院サイドにとって誤算だったのは、菊地に打球をレフト後方まで飛ばされてしまったことだ。二塁走者の山田隼がタッチアップし、三塁に進む。山梨学院ベンチで戦況を見守っていた吉田健人部長は、悔しそうに振り返る。

「次の4番打者の水野(岳斗)くんには、最低でも犠牲フライを打たれると思いました。それなら水野くんを申告敬遠して満塁にしたほうがいいと。(エースの)榎谷(礼央)なら押し出し四球はなくても、死球が怖い。それでも、次の左打者ならボールが抜けて死球になることはないだろうと」