王者陥落のピンチを救った大阪桐蔭の1年生左腕。「負けたことがない」男・前田悠伍とは何者だ?

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • photo by Kyodo News

「また桐蔭か......」

 そんな声があちこちから聞こえてきそうな強さで、秋の大阪大会、そして近畿大会を制した大阪桐蔭。とくに近畿大会では、塔南(京都)に7対0、東洋大姫路(兵庫)に5対0、天理(奈良)に9対1、そして決勝の和歌山東は10対0と、一戦ごとに強さを増し、寄せつけなかった。

 じつは秋の戦いが始まる前、頭に浮かんでいたのは "不安"だった。もしかしたら、王者の牙城がぐらつき始めるかもしれない......という不安だ。

 大阪桐蔭は今年春のセンバツで、西谷浩一監督がチームを率いて17度目の甲子園で初の初戦敗退を喫した。チーム一丸で挑んだ夏も、何度も崖っぷちに立たされながら驚異の粘りで甲子園にたどり着いたが、2回戦敗退。

 もちろん、春夏連続出場を果たしているように、急激に力を落としたわけではない。それでも、圧倒的強さを誇っていた大阪桐蔭の戦いを知っている者からすれば物足りなさを感じていたのも事実である。

 しかも敗れた相手が智辯学園(奈良)と近江(滋賀)。大阪桐蔭が甲子園で近畿勢に負けたのは初めてで、智辯学園には前年秋の近畿大会に続く連敗。同じチームに連敗することも極めて珍しいことだった。

 さらに振り返れば、昨年夏の独自大会でも、夏の大会は直接対決11連勝中だったライバル・履正社に21年ぶりの黒星を喫した。甲子園につながらないイレギュラーな大会ではあったが、これまでになかったような"異変"が大阪桐蔭に起きていた。

 そうした流れのなかで、野手は捕手の松尾汐恩以外は総入れ替えで臨む秋にどんな戦いを見せるのか。そこでも"らしくない"戦いを見せるようなら......しかし結果は、文句なしの強さで、来春開催のセンバツ大会出場を確実なものにした。

 この秋の戦いを振り返ると、打線もつながり活発に点を取ったが、強さのベースを担ったのは背番号14の1年生サウスポー・前田悠伍だった。

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