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怪物・松井秀喜を抑えた大阪桐蔭の「もうひとりのエース」。バッテリーにとって「ドラマのような試合」だった (3ページ目)

  • 田口元義●文 text by Taguchi Genki
  • photo by Kyodo News

 そんな背尾の心の鬱屈を見抜いていたのが、主将の玉山雅一である。「あいつは弱音や愚痴を言わん男」と信頼を寄せていただけに、いつも背尾の機微を感じとっていた。

「『入った時は俺がエース候補やったのに』っていうのは、やっぱりあったと思うんです。キャプテンとしてね、そこは気を遣った部分でしたね」

 和田の株価が急上昇したセンバツ後、玉山は背尾と本音で話した。

「監督も『和田と交互に投げさせる』言うてんねんから、どっちが1番とか関係ないで」

「それはわかってんねんけどな......。本当は2番手やないけど、周りの人らには2番手扱いされてるって思うてしまうというか」

「そんなことはないんやで! うちのチームではどっちもエースやけど、ふたりとも背番号1をつけるわけにはいかんやろ。いっそのこと11番つけたらどうや? 和田より1がひとつ多くてええやんか」

「嫌や。それやったら10番でいい」

 玉山が思い出話をしながら、「あいつも我が強いから」と笑う。

 主将と心を通じ合わせたことが、背尾が決意を固められた契機となった。

 夏の大阪大会直前のことだ。大阪桐蔭の指導者の間では、センバツから調子が上がらない和田より、背尾に背番号「1」をという決断も選択肢にあったが、結果的にエースナンバーは和田に託された。

 森岡からそのことを伝え聞いた背尾は、言いよどむことなく自分の意志をぶつけた。

「和田が1番でいいです。桐蔭は先発マウンドに立つピッチャーが、その試合のエースなんで、1番も10番も関係ないです。先発の和田がへばったら僕が投げますし、僕が打たれたらうしろには和田がいてくれるんで」

 その言葉どおり、この夏の背尾は見事にベンチの期待に応えた。先発マウンドに立つピッチャーが桐蔭のエース----その集大成の舞台が、星稜との準決勝だったわけである。

 前夜にビデオで試合をチェックしたバッテリーは、星稜対策をひとつに絞った。

「松井にだけは打たせないようにしよう」

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