固定概念にとらわれない智辯和歌山の「中谷流改革」。今夏、日本一で再び黄金期の予感

  • 田尻賢誉●文 text by Tajiri Masataka
  • photo by Ohtomo yoshiyuki

 恩師を立て、自らのことは謙遜し、元プロ野球選手というプライドは決して表には出さない。それが、智辯和歌山を21年ぶり3度目の優勝に導いた中谷仁監督だ。

 監督としての指導方法、自分の色を問われてこう答えた。

「高校野球の指導者の理想像は高嶋仁前監督ですし、自分も高嶋先生のようにという思いで、すべて継承してきているつもりです。高嶋先生にしかできないこと、僕にはできないこともたくさんある。とくに自分の指導方針というのは、まだできあがった立場ではないと思っています」

 そう語るが、すでに"中谷流改革"は着々と進んでいる。

監督就任3年目で日本一を達成した中谷仁氏監督就任3年目で日本一を達成した中谷仁氏この記事に関連する写真を見る 大きな変化のひとつは、県外出身の選手が増えたことだろう。高嶋前監督時代は、1学年の部員数は10人が基本。そのうち県外生は2人までを目安にしていたが、中谷監督になってからは、1学年の部員数は13人になり、県外生の制限も緩やかになった。

 今夏の和歌山大会でベンチ入りした20人のうち半分を超える11人が県外生である。以前は県外でも、大阪や兵庫など関西出身がほとんどだったが、今では鳥取や神奈川からやってくる。2年前に中谷監督自ら寮をつくったことで、遠方からの県外生が入学しやすい環境が整った。

 寮ができたことで食事管理が可能になり、体づくりがしやすくなった。今夏のレギュラーの平均身長は176.3センチ、平均体重は81.2キロ。ちなみに、高嶋監督が指揮を執っていた2017年は173.8センチ、73.7キロ、2018年は175.3センチ、75.6キロだった。身長はさほど変わらないが、体重は大きく増加していることがわかる。通常の食事に加え、ときには監督自ら夜食をつくることもある。

 1年生の終わりに入寮したエースの中西聖輝が言う。

「夜食はチャーハンとかですね。監督特製の野菜炒めはおいしかったです」

 ひとつ屋根の下で一緒に生活するため、自然とコミュニケーションを取る時間も増える。ストレッチしながら野球の話をすることで、考え方やプロでの経験を学ぶことができるようになったこともプラスになった。

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