無名公立の山田高校が甲子園に迫る。80歳「おばちゃん」の教え子も (4ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro

 まさに"おばちゃんの教え"にも通じるところで、子供たち一人ひとりの力を引き上げるヒントがこのあたりにあるのだろう。

 先にも触れた通り、山田高校野球部の2年生18人は全員が近隣の中学出身だが、なかでも田村は自宅から小学校まで徒歩3分、中学まで約10分。高校までも自転車で10分というのだから、まさに地元っ子の代表格。山田中時代には大阪で優勝した経験を持ち、山田高校のメンバーの中では勝つ味を知る数少ない選手でもある。ただ、高校進学を前に当初は「近所に住んでいたのに山田高校のことも野球部のこともほとんど知らなくて、私学へ行くことも考えていた」という。

 ところが、田村が中3の秋に山田が大阪大会3回戦で履正社を8回までリードする試合があり、これをたまたま観戦。ここで心が動いた。

「近所にこんな学校の野球部があるんや、と正直ビックリして。なら、野球もできそうだし、勉強もそこそこやれそうなんで、わざわざ遠いところへ行って高いお金を使わんでもいいな、となったんです」

 そして、山田進学を決断した結果、「今、こんなことになりました(笑)」。

 おばちゃんも「こんなこと」のさらなる続きを楽しみにしている。

「今回の山田高校の活躍で、この流れに乗って『よし、地元にとどまって公立で頑張ろう』という志を持った中学生が増えてほしいですね。それにしても、ホントにこんなことが起こるとは......。大きな希望を与えてくれて、感謝、感謝です」

 果たしてこのあと、大阪の"普通の公立高校"の"普通の野球部"に、さらに大きなスポットライトが当たる展開が待っているのか──。山田の地で50年、子供たちの野球を支え続けてきたおばちゃんも、その成り行きを見守っている。

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