無名公立の山田高校が甲子園に迫る。80歳「おばちゃん」の教え子も (3ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro

 なかでもウルフが人気を集める秘密は、家庭教育を兼ねた細やかな指導にある。チームでは挨拶、礼儀はもちろん、電話のかけ方、箸の持ち方、洗濯、お茶の沸かし方なども子供たちにしっかり教え、活動費のために新聞紙の回収などの労働にも取り組む。

 おばちゃんが「プロ野球選手をつくりたいわけではない。社会で働ける人間になることが一番」と語る通り、自分のことは自分でする教育を徹底。こうした指導が親たちにも口コミで評判となり、部員数は常に3ケタだ。

「朝の支度から洗濯、グラブ磨きまで親が全部やるような生活をしていると、考え方も行動も依頼心の強い子供がどんどんできあがってしまう。大人からのお仕着せじゃなく、自発的に考えて動く子供が増えることが大事。そういう発想を持てば野球の練習でも自分で考えてやるようになるので、試合の中でも自分から動けるようになる。何より社会に出た時に働ける人間になるよう、創意工夫、発想力、行動力を持った人間が増えてほしいと思って、いつもやっています」

 おばちゃんは、そう力を込める。

 そんな想いが、教え子を通じて山田高校にも伝わっているのかもしれない。山田高校の秋のトップバッターでウルフ出身の田村健吾が言う。

「ウルフの頃はまだ言われるままやっていた感じもあったんですけど、中学や高校に上がった時、自分では当たり前に思ってやってきたことをできてない人がいるな、と結構思いました。挨拶が普通にできてないとか、先生に敬語を使えないとか。でも、それではこの先困ると思うし、自分のことを自分でやることも野球をするなかでプラスになってきたと感じています」

 実は、山田高校もチーム指導の柱として「自主自立」をテーマに掲げている。金子恭平監督の発案で、現チームのスタートを機会にこれまでのトップダウン方式から、選手の声を拾い上げるボトムアップ方式に変更。選手からの自発的な意見や行動を求め、チームでは生活面とグラウンド上の仕事の両面で部員数の数だけ「係」をつくり、各自に責任を負わせるようにもした。

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