進学校の120キロ左腕が華麗に成長しプロを目指す。可能性にフタをしない (4ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by kikuchi Takahiro
  • photo by Kikuchi Takahiro

 試合後、片山は控えめに笑って「人生初の完封だったんです」と打ち明けた。齊藤監督から交代の打診を受けても、「最後まで投げさせてください」と続投を訴えた。オープン戦を含めて9回を投げ切ったこと自体が初めてだという。

「最初の試合はエースで勝つ、ということが頭にあったので。ピンチであたふたするのが一番ダメなので、堂々と投げることを意識しました。不器用なので口ではうまく言えないんですけど、チームメートには背中で感じてもらえたらと思って」

 このピッチングを中山監督が見ていたら、どんな感想を漏らしていただろうか。そう思いながら話を聞いていると、片山はこんなことを打ち明けた。

「ヒジをケガした3年春に、行き詰まりを感じて高校時代にやっていたことを思い出そうと当時のメニューを引っ張り出したんです。それを見て、高校時代は理解できずにやらされていたメニューが、じつはすごく考えられていた内容だったと今さら気づけたんです。あと中山先生がいろんな人を連れてきてくださって、いろんな話を聞かせてくれたことも思い出しました。自分で『このメニューにはどんな狙いがあるか』と気づくようになってから、成果が一気に出るようになりました」

 この勝利の後、片山の快進撃は続いた。9月21日の横浜商科大戦では終盤に崩れて敗戦投手になったものの、9月26日の関東学院大戦では14奪三振の快投で完投勝利。最速146キロをマークして、今季2勝目。さらに10月3日の神奈川工科大戦では7回8奪三振無失点の好投で3勝目。翌4日にもリリーフ登板して、4勝目を挙げた。

 教え子の活躍を茨城県北から見守る中山監督は、感慨を込めてこう語った。

「片山が入ってきた時から『こいつと野球ができるんだ』とワクワクして、可能性をものすごく感じていたんです。でも、高校では最後まで大化けする姿を見ないまま終わってしまって。大学4年間、齊藤監督にお預けしたことで、やっと私がぼんやり描いていた未来予想図に彼の今の姿がオーバーラップするようになってきました。この前は『優勝するので、神宮まで見に来てください』なんて連絡をくれて。そんなこと言えるヤツじゃなかったんですよ(笑)」

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