あいつよりもいいチームをつくりたい。激戦地・東京でしのぎを削る双子監督

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Kikuchi Takahiro

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 機敏な動作で各ポジションに散った赤いユニホームの選手たちが、仲間にも厳しい声をかけ合う。教え子たちによる緊張感のある試合前のシートノックを見守っていた、雪谷の芝浩晃(しば・ひろあき)監督は大きな声で叱咤した。

「『次、次、次......』と進めていくのが高校野球のリズムだよ。おまえたちの野球は日曜の草野球と一緒だぞ!」

雪谷の芝浩晃監督(写真左)と足立西の芝英晃監督雪谷の芝浩晃監督(写真左)と足立西の芝英晃監督 雪谷は2003年夏に甲子園に出場した、都立高の強豪である。指導者は変わっても、現在も東東京の有力校であり続けている。芝浩晃監督には、前任校であり母校でもある江戸川を東東京ベスト8へと導いた手腕がある。練習試合が始まっても、雪谷は序盤から試合を優位に進めた。

 だが、相手の足立西も負けてはいない。濃紺のユニホームをまとった選手たちは終盤に追い上げ、雪谷を慌てさせる。三塁側ベンチで仁王立ちする芝英晃(しば・ひであき)監督は、選手に向けてこう語りかけた。

「2時間のゲームで1時間55分負けていたっていい。最後の5分で勝っていれば、それでいいんだ。野球はそういうゲームなんだから!」

 部員は2学年合わせてわずか13名。だが、この日は1名が数学の補習で来られず、2名が肩を痛めており人数はギリギリだった。部員は少ないとはいえ、今夏は東東京独自大会でベスト16に進出するなど、存在感を発揮している。

 試合は8回裏に2点を追加して突き放した雪谷が、6対2で足立西を破った。試合後、芝浩晃監督と芝英晃監督はフランクに語り合った。

「いいピッチャーがいるんじゃん。ビックリしたよ」

「ノック中にやってたあのプレー、たぶん今度ウチでも取り入れさせてもらうから」

 ユニホームを着ていなければ、どちらがどちらかわからなくなるほど顔が似ている。名前も顔も似ている理由は、ふたりが双子だからだ。双子そろって高校野球監督という例は実に珍しい。

 戸籍上の兄である、浩晃監督は言う。

「ヒロアキとヒデアキで『ロ』と『デ』しか変わらないので、お互い『ヒロ』『ヒデ』と呼んでいます。どっちが兄でどっちが弟という感覚はないので、逆に一般的な年の違う兄弟の感覚がわからないんです」

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