「トレンディエース」の母校に大器。快速右腕にスカウトは「見方が変わった」 (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Kikuchi Takahiro

 8月8日、滋賀独自大会の3回戦、滋賀県立彦根球場で行なわれた北大津戦には、バックネット裏に5球団のスカウトが集まっていた。

 だが、先発マウンドに立った小辻には、「自分の評価を高めたい」という私欲は見られなかった。立ち上がりからスライダーを3球続ける。翌日に近江との準々決勝という大一番が控えていることも頭にあるのだろう。キャッチボールの延長のような力感のないフォームで、変化球を多めに投げ込んでいく。

 だが、2ストライクに追い込むと、明らかにギアを上げた強い腕の振りで三振を奪いにきた。3回からは5者連続三振。計6イニングを投げて被安打2、奪三振10、与四死球2の無失点。チームは2対1で勝利した。

 この日、初めて小辻を視察したという橿渕聡スカウト(ヤクルト)はこんな感想を漏らした。

「ストレートは速いけどコントロールが荒れていると聞いていたのですが、意外とコントロールがよくて見方が変わりました。スライダーを続けたあとに、ストレートが抜けずに指にかかるのがいいですね」

 試合後、小辻は「今日は球速よりテンポを重視しました」と語った。

 力感のないフォームについて尋ねると、小辻はこんな実感を語っている。

「明日もあるので力感なくリラックスして投げたんですけど、力まないほうが球のキレがいいなと思いました」

 新境地に達したように見えた。これなら、滋賀の絶対的な王者に君臨する近江相手でも好投できるのではないか。そんな気配すら漂っていた。

 翌8月9日には、前日以上にプロスカウトが彦根球場のバックネット裏に集結していた。近江にはドラフト候補のショート・土田龍空(りゅうく)がいる。小辻と土田のドラフト候補対決を見にきたのだ。

 だが、試合は思わぬ方向に傾いていく。そもそも、試合開始時に小辻の姿はマウンドではなく、ライトにあった。小椋監督は言う。

「練習試合でも土日で連投させたことはありませんでした。昨日は93球投げていますし、ほかのピッチャーで序盤を頑張ってもらって、リードした状態で小辻にバトンタッチしたいという狙いがありました」

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