2020.08.01

冷や汗シーンが連続。「史上最悪の大誤審」前にあった「死闘」

  • 菊地高弘●取材・文 text by Kikuchi Takahiro

当事者が振り返る40年前の「大誤審」 中編

前編:元主将が振り返る40年前の「カワコウ」>>

後編:「大誤審」が起きた後の混乱>>

「自分にとって上尾戦は特別な思い入れがあったんです」

 40年前の夏の記憶を思い起こして、国府田等(こうだ・ひとし)さんはしみじみと語った。国府田キャプテンが率いた川口工業は「史上最悪の大誤審」の動画で後年にネット界を騒がせたが、実はもうひとつの「知られざる死闘」があった。

当時の川口工業ナインを紹介する記事の一部(写真/国府田さん提供) 1980年夏の埼玉大会、ダントツの優勝候補に挙げられたのは上尾だった。何しろ同年春の選抜高校野球大会に出場するなど、1979年夏から県内無敗の戦績を誇っていたのだ。仁村三兄弟の三男・健司さんは全国的に名の知られた好投手だった。

 そんな上尾と埼玉大会準決勝で対戦したのが川口工業だった。

 国府田さんは指先を真っすぐ伸ばした両手を狭めるようなジェスチャーをして、苦笑混じりにこう言った。

「私は入り込むと、周りが見えずに突き進んでしまうタイプなので......」

 そんな猪突猛進型のキャプテンが見せた、世間の「高校野球」のイメージを覆すプレーの数々を再現してみたい。

 1回表、川口工業は1番打者の国府田さんが左打席に入る。その初球、仁村さんの投げた内角低めのストレートに対し、国府田さんは真下にしゃがみ込む。ボールは国府田さんが突き出した右ヒザ周辺に直撃した。投球をよけるというより、むしろ積極的に当たりにいっている動作である。

 判定はデッドボール。すると国府田さんはバットを持ったまま両手を腰に当て、マウンドの仁村さんをにらみつけて、つかつかと2歩、3歩と近づいたのだ。

 高校野球でまさかの乱闘か......と思わせる、見ているだけで冷や汗が出るシーンである。さらに、これだけでは終わらない。

 続く2番打者の送りバントがファーストの正面に強く転がり、上尾のファーストは二塁に送球する。ここで一塁ランナーの国府田さんはスライディングするのだが、ベクトルは二塁ベースではなく、明らかに送球を待ち受けるショートに向いていた。